編集部注:工藤恭孝氏は今年11月、丸善ジュンク堂書店の社長を退き、会長に就任した。インタビューは社長在任中だった今年8月に収録した。
「化石みたいな商売」で「ギリギリの経営」
――今年5月、工藤さんは書店経営者を集めた「日経BPマーケティング特約会」で、「大型書店は『化石』みたいな商売でギリギリの経営を続けている。その筆頭が丸善ジュンク堂書店だ」と発言されたそうですね。書店の大型化を引っ張ってきた工藤さんの発言だけに、会場は静まりかえったと聞きました。
【工藤】「化石みたいな商売」とお話ししたのは事実です。私はこんな話をしました。
「ネット検索が広がり、大型書店は本を探すのに苦労する『ただ不便』な店になった。ネット書店は電子書籍と検索機能などで読者の利便性を高めている。一方で、大型書店は『化石』みたいな商売でギリギリの経営を続けている。その筆頭が丸善ジュンク堂書店。実際に大型店ほど苦戦している。中でも丸の内、池袋、大阪、福岡などの巨艦店舗が全部苦しくなっている」
いまはアマゾンのようなネット書店を使えば、専門書でも簡単に見つけられます。お客さんは以前だったら大型書店に行って、一生懸命探してくれました。しかし、いまは「もうそんな時間はもったいない」という方もいる。リアル書店と違って、すぐに手に入るとは限らないけれども、簡単に見つけることができる便利な装置ができてしまうと、われわれが得意としてきた大型店が一番影響を受けます。
「アマゾンが便利な仕掛けで、われわれが得意とする、手に入りにくい本をどんどん売っているために、アマゾンの伸張と合わせて大型店がずっと苦しくなっているのはみなさんご存じのとおりです。だから、今から対応を考えないといけません」という話をしたつもりでした。ただ、「だから」以下の部分が抜け落ちて伝わってしまったようです。
たしかに大型店舗は苦しくなっています。買うには不便な店と思われているからです。しかし、買うだけという点では、すでにアマゾンのやり方も古くなっているんじゃないでしょうか。モノの消費よりコトの消費と言われている中で、われわれはリアル店舗だからこそ展開できることがあると思います。わざわざ来てもらえるだけの楽しさを演出できない書店は、アマゾンに全滅させられるんじゃないですか、ということを、言ったつもりでした。しかし、そのことがちゃんと伝わらなかったみたいで、泣き言の会で終わってしまいました。