東京以外では「下げ止まり」の傾向

――大型店がネット通販の「倉庫」のような役割を果たせば、売り上げの減少は止められるということでしょうか。

【工藤】東京の巨艦店舗以外は下げ止まってきています。なかには伸びている店舗もあります。ただ、競争相手はアマゾンだけではない。もっと大きな問題はネットでいろいろなサービスが増えているため、本を読まなくなる人が増えているということです。

電車に乗って観察していると、みんなスマホでゲームをしています。結局、紙の本を読む時間が減っている。この変化には、うちだけでは抵抗できません。とくに巨艦店舗というのは、地域の売上を独占しているような部分があるので、市場全体の数字が下がると同じように影響を受けてしまいます。読書時間が5%減れば、うちの売り上げも5%減ってしまう。これだけはうちの力ではどうにもならない。業界全体で本を読む人を増やしていかなければいけません。

コンビニや地方の郵便局を書店に

――「丸善ジュンク堂」のような大型チェーンであれば、アマゾンなどのネット書店に対抗する方法がありますが、地元密着の小規模書店では廃業するケースが相次いでいます。

【工藤】問題は雑誌ですね。値段を上げたら売れないと思っている版元さんが大勢なのでね。書店が売り上げを確保できるような高価格の雑誌を出してもらわないと、書店経営は難しいです。値段を上げて、正味(書店の仕入れ値)を下げてもらえれば、町の本屋さんにも「うちは店にゆとりがあるから配達もするわ」と考えてもらえるでしょう。そうした対策を何とか出版業界全体でやれないものか。フレッシュな売り場をつくるには、雑誌は欠かせません。本屋がなくなった地域でも、せめてどこかに雑誌は置いてほしいですね。

――書店のなくなった地域では、コンビニが雑誌や書籍の流通を担っていますね。

【工藤】コンビニが本屋の役割を果たしてくれれば、それは望ましいことだと思います。もしくは郵便局が担う可能性もあるでしょう。スペースに余裕のある地方の郵便局には、「半分本屋にしてくださいよ」とお願いしたい。郵便局ですから配送もできるはずです。流通機能を相乗りで使えば、稼働率も上がり、効率化も進むと思います。

工藤 恭孝(くどう・やすたか)
丸善ジュンク堂書店 会長
1950年兵庫県生まれ、72年立命館大学法学部を卒業後、実父の工藤淳が経営していたキクヤ図書販売に入社。76年にジュンク堂書店を立ち上げ代表取締役社長に就任、2012年丸善書店の社長に就任、2015年丸善書店とジュンク堂書店が合併し丸善ジュンク堂書店発足、初代社長に就任。17年11月代表取締役社長を退任し会長に。
(撮影=プレジデントオンライン編集部)
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