まず生き残ることを考えるリアルな哲学

会社勤めしていると会社と自分の幸せを同一視しがちです。しかし、1つの価値観に固まってしまうと、生き残るのは難しい。もはや会社には依存できない時代です。会社に囚われず、自分が勝てる土俵を常に探すべきでしょう。

『孫子』と職場の人間関係の問題もよく聞かれます。例えばライバルの多い社内で自分の立場を鮮明にしたほうがいいのか、中立を守るほうがいいのか。これは難しいですね。

孫子ならまず、争っている2人と自分の関係を考える気がします。対等な関係であれば、中立を保っていても問題ない。しかし、上層部同士が争っていて、あとで「なんで俺の味方しなかった」と言われる立場だったら、どちらかに付いておいたほうがいいのか。ないしは、どちらにも付かなくても「こいつがいないと組織が回らないから、味方にしておこう」と思わせるぐらいの何かを持つことで問題を回避しようとするのか。

孫子の兵法の使い方は場面ごとで変化します。しかし、その根底にあるのは、感情は置いておいて、まず生き残ることを考えるリアルな哲学です。勇気を振り絞るだとか、敗者の美学といった世界とは真逆の世界観です。

とはいえ、2500年も前に書かれた古典が役に立つのでしょうか? キヤノン電子の酒巻久社長はこう語っています。

「自分は古典を答え合わせに使っている。何か問題があったら、まず自分でどうするか考える。出した答えと同じようなことが古典に書いてあったら、それは正解だと思うようにしている。古典にこう書いてあると人を説得しやすい」

古典に答えを探しても、昔の話すぎて具体的な答えが載っているわけではありません。古典を答え合わせに使うというのは正解だと思います。

守屋 淳
1965年生まれ。早稲田大学卒業。大手書店勤務ののち、中国古典研究家として独立。著書に『最高の戦略教科書 孫子』ほか。
 
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