さらには来るべきスマート世界への展開準備という狙いもあるのでしょう。後に触れますが、スマートホームを担うのがアマゾン・エコーでありアレクサ、そしてスマート・ショップを担うのがアマゾン・ゴーにあたります。ここで培った知見は、その先にやってくるであろうスマートオフィスやスマートシティの時代にも、応用が利くはずです。

また第4章でも述べていきますが、「ベゾス帝国」で計画を進めている宇宙事業やドローン事業は、「無人システム」であるということが本質です。そして無人コンビニ店舗であるアマゾン・ゴーも「無人システム」です。音声認識AIであるアマゾン・アレクサがすでに自動車メーカーのスマート・カーにも搭載され始めていることなども考え合わせると、実はベゾスは完全自動運転の覇権を握ることまでも企んで、水面下で準備を進めているのかもしれないのです。完全自動運転の実験場がアマゾン・ゴーだとするなら、本当に驚異的なことでしょう。

ネット通販が確立していない最後の分野

では、スーパーマーケットを展開するホールフーズを買収した理由はどうでしょうか。第1には、購買頻度の高い生鮮食料品に進出したい、という思惑があります。ECサイトにとって、購買頻度は重要な売上方程式の因数です。そして、リアル店舗においても購買頻度が最も高い分野は生鮮食品。一方では、ネット通販がまだ確立されていない分野、最後の分野といってもいいでしょう。アマゾンは虎視眈々と、生鮮食料品市場を狙っていたのです。

ホールフーズの買収を経ることで、今後は、アマゾンのサイトを通じて、新鮮なオーガニック食材の取り扱いを本格化していくことになります。これまでもアマゾンは、アマゾン・フレッシュというプライム会員向け生鮮食品配送サービスを展開していました。ただ、消費者にはまだ生鮮食品を通販で購入する習慣が根付いておらず、またサービスを展開するエリアも限られていることから、伸び悩んでいました。

しかし、数百店舗ものホールフーズの店舗網が、即座にアマゾン・フレッシュの拠点になりますし、さらにいえば、生鮮品の在庫や配達サービスなどのサプライチェーンの諸問題を解決する物流拠点や倉庫としても活用できるでしょう。

ホールフーズ買収の本当の意味

さらには、消費者がネットで注文した商品を受け取る場所としても、活用されることがすでに発表されています。つまり買い物客は今後、あらかじめオンラインで注文しておけば、店舗を歩き回って商品を探す手間も、自宅に配送されるまで待機しなければならない手間もいらず、店舗で即座に商品を受け取るという選択肢を手にするのです。

そして、アマゾンは究極的には食料品の当日配達を標準にしたいと考えているはず。そのため、ホールフーズの店舗をPrime Now(プライム・ナウ)やアマゾン・フレッシュ専用のフルフィルメントセンターとして機能させるものと思われます。

ホールフーズの買収を契機に顧客の位置情報も取得できるような新たなアプリも導入してくるのではないかと予想されます。アマゾンはこれまでさまざまなビッグデータを蓄積してきていますが、唯一、アップルやグーグルのようにリアルタイムに包括的な位置情報を集積するまでには至っていませんでした。

しかし、ホールフーズの買収やアマゾン・エコーを導入するにあたってアプリをリリースすれば、それが可能になる。何かしらの理由をつけて、必ずアマゾンアプリをリリースしてくるに違いありません。その理由は、宇宙事業が本格化するなかで空間情報や位置情報が重要度を増しているからですが、それについては第4章で後述します。