キャリアの今の段階で子育てに専念しておいて、子供がある程度手がかからなくなったら、再びキャリアに専念する。働く人が、実質的にこうしたバランスを選択できる仕組みは、長期的な意味で、働きやすい職場を提供する。また、こうした企業は働きがいもあるだろう。逆に、両方とも中途半端にしか実現できないような職場は働きにくいし、働きがいもない。

実際、今、企業経営のなかで、働きやすさと働きがいの両方を徹底して追求することで競争力を確保する企業も出てきている。話題になる例でいえば、グーグルやマイクロソフト、SASインスティチュート(アメリカの計算用ソフト会社)などのIT企業の一部である。チャレンジしがいのある仕事や、厳しい成果主義と公正な評価を通じて、働きがいを提供し、同時に極めて厚い福利厚生でそうした成果達成への阻害要因を減らす。長期の休暇や徹底した裁量労働制、社内の豪華カフェテリアやフィットネス施設などがしばしば紹介される。

働く人の視点から企業への評価が進んでいる米国

働きがいと働きやすさは表裏一体のものなのである。どちらか一方ではない。働きがいを追求するためには、働きやすさを提供しなくてはならないし、また働きやすさを提供しても、働きがいがなければ、ただの“従業員に優しい会社”である。既存の“働きがいが高い”企業ランキングを見て、しばしば首を傾げてしまうのは、働きやすさに特化した評価の仕組みになっているからだろう。

でも、いったいなぜ今になって多くの企業人や働く人が、働きがいに関心をもち始めたのだろうか。そのことを考えるために、働きがいや働きやすさの視点から企業や職場を評価することの意義を少し考えてみよう。

働きがいにしても、働きやすさにしても、共通しているのは、それが企業や職場の、働く人の視点からの評価であるということだ。その意味でこれまでの企業評価とは大きく異なる。

いうまでもないことだが、通常の企業評価は、経営の視点、または株主視点からの評価であり、その意味で、働く人による評価の要素は入ったとしても、あくまでも経営視点からの評価の一部である。最近話題になっている無形資産会計における人的資本なども人材の能力や技能の価値などに注目する。視点は経営である。