人材が流出する可能性をいかに食い止めるか

もちろん、このモデルだけが唯一の方式ではない。他の方式もあるだろう。でも、わが国の制度や歴史、文化的背景と整合的なモデルだと思っている。また、働く人も長期的な雇用を求める傾向が強いと考えられる。

したがって、経営としての課題は、流動化し、働く人の選択権が高まるなかで、こうした長期性をどうやって維持していくかにある。ここでいう長期とは、理論的に言えば、何回も繰り返される選択の集積である。一回ごとの選択で外部へ流れる可能性のある人材が、そのたびごとに自社を選択してくれる状況をどうつくり出すか、という課題だともいえる。

図:4種の従業員価値
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図:4種の従業員価値

これが長期雇用の1つのとらえ方であり、すべてがこのモデルにいきつくわけではないが、労働市場の流動化や働く人の意識の変化など、このモデルで考えるのに適合的な要因が増加しているのも事実だろう。高業績者についても、それ以外の人材についても、ほぼ同様だ。選択の意識は強まっている。そして、残る選択をするときに、望ましい選択をしたという意識がない場合、雇用は継続しても、知的投資のレベルを下げるということも十分考えられるのである。そうした状況では、従業員価値を測り、理解することは重要な経営課題となる。

したがって、私は日本の場合(というか、おそらく他の国でも)、現在顕在化した価値だけではなく、未来への期待を要素として含んだ概念で、従業員価値を評価する必要があるのではないかと考える。つまり、未来への期待を原動力に、今残ることを選択するというストーリーである。中核的なものとして、働きがい要素としては、「人材としての成長」や「達成感」、また、働きやすさ要素としては、「人生の展開に合わせた選択の可能性」や「公正に扱われること」などである。まだまだ仕掛品だが、図に示しておいた。

いずれにしても、こうした従業員価値を把握する試みは、新たな組織と人との関係のなかで重要な要素となる。もちろん、すべての企業で、コストのかかるアンケート調査などをする必要はないかもしれないが、経営者として、働く者として、その企業が従業員にとってもつ価値を知ることは、ますます重要になるだろう。

(平良 徹=図版作成)