差別化の源泉は泥臭いノウハウ

さらに、これまでにベステラは、大手設計会社をクライアントに大型設備の現況データ計測を実施。3D点群データと3D-CADを駆使して精密な改修や解体のプランニングにつなげている。また3D点群データは、自動運転などロボティクスのベースとなることから、ベステラではロボットと重機を組み合わせた自律解体を目指して大学等と共同研究を進めている。

デジタル・ディスラプションに取り組むことで、成長市場の追い風のもとにある国内企業は、その風をより強く、そして大きく受けとめることができるようになる。ベステラの事例はこの可能性を示している。各種のデジタル技術の発展は著しい。この動きを取り込まずに、漫然と眼前の市場の成長余地に向きあっている企業は、千載一遇のチャンスを取り逃すことになるだろう。もちろん非成長市場の逆風のなかで事業を前進させていくのにも、デジタル・ディスラプションは有効だ。

ベステラの事例で興味深いのは、「3次元計測」のようなデジタル・ディスラプションに挑むことで、大型プラント解体に限定されない各種の建物や施設の解体や更新、さらには自動運転などへと事業を拡張していく可能性をつかんでいっていることである。

加えて、デジタル・ディスラプションには、先端テクノロジーの社内開発は必ずしも必要不可欠ではない。ベステラは、「りんごの皮むき工法」や「3次元計測」を、市販されている機器やソフトなどの組み合わせで実現している。そのなかでのベステラの差別化の源泉は、デジタル・スキャナをどのように現場で動かせば、効果的に計測を行うことができるかといった、実は泥臭いノウハウの社内での蓄積にある。

さほど特別・特殊な企業でなくとも、成長市場を見いだし、取り込んでいくのは決して不可能ではないのだ。

栗木 契(くりき・けい)
神戸大学大学院経営学研究科教授。1966年、米・フィラデルフィア生まれ。97年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。博士(商学)。2012年より神戸大学大学院経営学研究科教授。専門はマーケティング戦略。著書に『明日は、ビジョンで拓かれる』『マーケティング・リフレーミング』(ともに共編著)、『マーケティング・コンセプトを問い直す』などがある。
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