ゲームに夢中になるように勉強できる

【三宅】ゲームと教育との関係についてですが、藤本先生のご経歴を拝見させていただくと、大学卒業後は大手予備校に就職。いわば教育分野に進まれています。そこで、ゲーミフィケーションの研究に興味を持たれた経緯を教えてください。

【藤本】私はもともと勉強が好きだったわけでもなく、まして、教えるのが得意でもありませんでした(笑)。憧れてこの分野に進んだというよりむしろ、子どもたちが、自分が受けたような教育ではなく、もっと楽しい教育を受けてほしいと切実に思ったことがモチベーションになっているのかもしれません。

【三宅】ペンシルバニア州立大学に留学されたのもそのためですか。

【藤本】子どもの頃、ゲームに夢中になって「こんなふうに勉強できればいいのに……」と考えた経験は、誰でも持っているのではないでしょうか。そこを研究にしたらおもしろいだろう、と。ただ、日本にいる時はそこまで考えていなかったんです。むしろ予備校で働いていたときは、いかに良い授業を提供するかということを考えていました。

2002年から留学したのですが、その直後の2003、04年ぐらいからシリアスゲーム(社会問題の解決を主目的とするゲーム)を使った教育を普及させようという動きがアメリカを中心に起きてきました。当然、それに取り組む研究者もかなりいたわけです。そのコミュニティも組織されていたので、私も参加しました。

シリアスゲームの代表的なものが、「シムシティ」という都市を開発していくゲームの大学版、つまり大学を経営する「バーチャルU」というゲームがスタンフォード大学の副学長の主導で開発されて、無料公開されていました。米国の大学院などのシミュレーション教材として活用されていましたが、それを目の当たりにしたことが、私が「この分野でやっていこう」と確信を持った理由です。

『対談(2)!日本人が英語を学ぶ理由』(三宅義和著・プレジデント社刊)

【三宅】日本人はどうも生真面目なのか、勉強は苦しいもの、努力しなければならないものと捉えがちです。楽しくやるのは勉強ではないという風潮があります。特に、われわれの世代では「刻苦勉励」が尊いとされてきました(笑)。

【藤本】しかし、我慢しなくて、辛くなくて済むものは楽しく学べるほうがいいというのが、私の考え方です。

【三宅】そうですね。英語はそもそもコミュニケーションの手段ですから、コミュニケーションの学習をするのに、苦しい中でやるというのも変な話です。もちろん単語を覚えるという地道な努力は、一方で必要ですが、相手と理解し合うには心を開いて、楽しくやるというのは絶対必要ですよね。

先生がおっしゃった、自分の苦労はさせたくない、自分が学んだようには、これからの子どもにはさせたくない。まさに英語教育に関しても、そのまま当てはまることだと思います。

藤本 徹(ふじもと・とおる)
東京大学 大学総合教育研究センター 特任講師。1973年大分県別府市生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。民間企業等を経てペンシルバニア州立大学大学院博士課程修了。博士(Ph.D. in Instructional Systems)。2013年より現職。専門は教授システム学、ゲーム学習論。ゲームの教育利用やシリアスゲーム、ゲーミフィケーションに関する研究ユニット「Ludix Lab」代表。著書に「シリアスゲーム」(東京電機大学出版局)、訳書に「幸せな未来は「ゲーム」が創る」(早川書房)など。
(構成=岡村繁雄 撮影=澁谷高晴)
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