それ以来、昇進はストップ

最近では、上司が部下に対して癇癪を起こしたり怒鳴りつけたりすると、「パワーハラスメント」と言われる恐れもある。昔は「あの部長、怒りっぽい」で済んでいたことが、会社全体の問題にまで発展することもあるのだ。

「極端な例ですが、あるメーカーの拠点長は、とにかく部下の抗弁を聞かない人でした。ミスをしたときには皆の前で一方的に大声で問いただし、言い訳は一切認めない。耐えられなくなった部下たちが一致団結して、出社をボイコットしちゃったんです。彼は拠点長の役職を解かれ、それ以来、昇進はストップ。本人は、自分がそこまで部下たちを追い詰めていたとは全く気づいていなかったそうです。この手の問題は、表面化する段階ではたいてい手遅れになりがちなのも特徴ですね。関係修復は、まず容易ではありません」(諌山氏)

感情のマネジメントができる人でなければ、人事的にも評価されない。部下とのトラブル、上司や同僚とのトラブルを、会社側がいちいち尻ぬぐいしていられないからだ。

「自己責任で対処できるだけのヒューマンスキルが重要視されている時代だと思います」(諌山氏)

早まった退職で退職金の一部を逃す

また、出世するしないにかかわらず、イライラを撒き散らし続けて周りから孤立するようでは、組織の一員としては死に体。

「外資系企業の人事でよく使われるのが『アクセシブル』という言葉。これは他者から見たときのアクセスのしやすさ、つまり、取っ付きやすさを指す言葉です。当然ながら、怒りっぽい人、常にイライラしている人というのはアクセシブルではない。つまり、社内の人が寄り付かず、自ずと情報が入ってこない不利な立場を強いられることになります。自ら部下や他部署に何か頼み事をした場合でも、そもそも好かれていないので、優先順位が下げられてしまい、十分な協力が得られなくなるリスクもあるでしょう」(村上氏)

実際、ある外資系ソリューション企業では数年前、次のようなケースがあったという。

「当時、財務部長のポストにあった人物がやはり気難しい性格で、周囲となかなか折り合えずにいました。やがて会社が吸収合併されることになったのですが、この際、適切なプロセスさえ踏めば、管理職には退職前に年収分の割増金が支給されるというパッケージが用意されていたんです。ところが彼は、最後までごねて上とやり合った末に、半ば強引に退職を決断。そういったパッケージに関する詳しい説明を受ける機会もなく、正規のプロセスを経ずに出ていくことになりました。当然、割増金もなし。周囲からちゃんと情報を得られていれば、早まった退職でこうした損をすることもなかったはずなのですが……」(村上氏)