この請求権の中には、「李承晩ラインを越えた」ということで拿捕された日本漁船、その乗組員らから生じたすべての請求権も含まれていました。従って、日本はこの協定に基づき、拿捕された漁船や漁船員の被害・損害を、韓国に請求していません。日本の政府が自ら、被害者や遺族に対し、様々な補償を行ったのです。

個人の請求権は国家間の条約に勝る?

一方の韓国政府は、請求権協定を国民に隠蔽していました。李明博政権時代の2009年、韓国政府はようやくこの協定の存在を公式に認めましたが、『軍艦島』という映画の大ヒットにもみられるように、韓国では今「強制徴用工」の問題が取り沙汰されています。

韓国の光州地裁は、戦前に三菱重工業の名古屋工場で強制徴用されたという訴訟に対し、8月8日に計1億2325万ウォン(約1170万円)の賠償、11日に計4億7000万ウォン(約4500万円)の賠償の支払いを三菱重工業に命じる判決を出しました。

この判決について文在寅大統領は、「両国間の合意は個人の権利を侵害できず、元徴用工の個人が会社に持つ民事的な権利は残っているというのが韓国憲法裁判所と大法院(最高裁)の判例である」という見解を表明。これに対し日本政府は、ソウルの日本大使館を通じて「徴用工問題は1965年の日韓請求権協定で解決済み」という立場を改めて伝え、韓国政府が従来の「解決済み」という立場を変更したのかどうかの確認を求めました。日本の一部メディアは、文大統領が8月25日の安倍首相との電話会談で問題の発言を修正したと報じましたが、日韓両国政府からはこの件について正式な発表は行われていません

(*1)外務省公式サイト「サンフランシスコ平和条約起草過程における竹島の扱い」における日本語訳より

宇山卓栄(うやま・たくえい)
著作家。1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。おもな著書に、『世界一おもしろい世界史の授業』(KADOKAWA)、『経済を読み解くための宗教史』(KADOKAWA)、『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)、『“しくじり”から学ぶ世界史』 (三笠書房) などがある。