達人を丸ごとコピーする
Uさんと自分がどう違うのか、どうすればその差を埋められるかなんて、すぐにはわかりません。ただ、草野球と大リーグのような巨大な差があることは、よくわかりました。いや、ミジンコとヒトの差と言っても過言ではないでしょう。緊急対応法は、達人をコピること。とぼとぼ家に帰った私がやったことは、「丸ごとコピー(ものまね)」です。数日後に迫ったプレゼンテーション本番をくぐり抜けるには、もうそれしかありません。
プロジェクト・マネジャーのUさんがくれたプレゼンテーションビデオを何回も見て、彼の言い回しをすべて書き取って、全部、まねました。冒頭の入り方、ページ毎のセリフ、途中の間の取り方まですべて。それをひたすら覚えて練習しました。何回も。何十回も。
当然、練習もビデオに撮りました。あとでイヤイヤ見て、とてもガッカリします。そしてまた練習です。でもやっぱりセリフに自信がない(すぐあがってしまって忘れる)ので、A4の白紙に赤ペンでセリフを全部書き込みました。ジョークも、自分の笑い声も、語尾の一つひとつも、すべてです。それを読めばよい、というだけで安心でした。コンサルタント人生最初の大舞台は、そうやって乗り切りました。でも、そこから自分が納得できるレベルまで辿り着くのに、さらに6年かかりました。
まずは立ってただ読むマネキン大作戦から
BCGに入社して半年、お客さんの前で話すようになったとき、上司に言われました。「お前は下手なんだから、上手にしゃべろう、なんて思うな」「手をまっすぐにして、スクリーンを差して、そのまま書いてあることを、ただ読み上げろ」「理系の誠実さ(だけ)で勝負だ」「指もそろえろよ」資料をスクリーンに映して、手を斜め45度に挙げてそれを指し示
し、多言を弄ろうすることなく、ただ読み上げろというのです。なるほどと思ってそうしました。名付けてマネキン大作戦。やることは、
―読んでわかるだけでなく「聴いてわかる」資料にする
―それを声に出して淡々と読む
それだけです。まずはここから。ただ新人の間はそれでも許されますが、さすがにそれだけではつらいので、書いてあること以外のセリフも考えます。もちろん全部書き下した原稿をつくって丸覚えです。いざというときは原稿を読めばよいので、これはナレーター大作戦。