プレゼンテーションで天才や偉人の「名言」を引用する人がいます。まるでその天才になりきったようで、話す側は気分もいいでしょう。しかし「達人プレゼンター」として知られる三谷宏治さんは「『虎の威を借る』のは逆効果」と注意します。それではどんな話し方が効果的なのでしょうか。三谷さんが「プレゼン上達のコツ」を解説します(全3回)。

※以下は三谷宏治『ゼロからのプレゼンテーション』(プレジデント社)からの抜粋です。

相手をカチンとさせるとこちらを向く

いきなりプレゼンテーション、いきなり本論、は避けたいもの。人は機械ではないので、論理だけではけっして意思決定には至りません。その意思決定が困難であればあるほど、論理を超えたものが必要になってきます。それは、いきおいだったり、気合いだったり、危機感だったり……。つまりは感情ということです。その「感情」を呼び起こすために、プレゼンターができること、するべきことがいっぱいあります。まずは相手のココロをつかむこと、です。上智大学の講義の話では、それを「場」の支配と呼びました。

元伊勢丹カリスマバイヤーとして名を馳せ、のちに参議院議員も務めた藤巻幸夫さんは、名プレゼンター、コミュニケーターとしても有名です。彼は面談時に相手の心をつかむには、「自分自身をさらし、語ること」だと言っています。

「私は今、こう思っています」「こう感じています」「新聞や評論家はこう言ってますけど、こんなのおかしい。私から見ればこうですね」。もちろん、相手の意見を無視することではありません。相手が興味や関心ある領域で、これをやるのです。そこから相手はシンパシーを感じ始めます。こちらをギョウシャ(業者)や取引先の代表者ではなく「人」として見るようになるのです。「こいつの言うことを、聞いてみようじゃないか」、と。他にも藤巻さんは、

「相手をカチンとさせると、こちらを向く」
「話に煮詰まったら『過去』をはさむ」
「人をほめるなら、第三者に向かってほめる」
「即断即決は人に感動を与える」

といった相手の心をつかむ極意を教えてくれています。(『藤巻幸夫のつかみ。』)インタビューや面談であれば、こういったことは確かに効果的です。1対1ですから、相手ひとりの反応で話のテーマを決められますし、相手に合わせて随時変えてかまいません。かつ、時間も結構かけられます。刑事コロンボ(古い……)ではありませんが、ダイジなことは
最後にちょっとだけ尋ねる、でもかまいません。それまでの時間は、相手の心をつかむ(コロンボの場合は油断させる)ために使っていいのです。

私が新人時代、60分のクライアントインタビューの前に先輩に言われました。「最初の15分は、本論に入るな」「まずは自分を理解してもらって、そして相手を理解しろ」「重要なことは後半30分でいいし、ホントに聞きたいことは最後に聞け」と。これらは、プレゼンテーションでも似ています。でもちょっと、違います。プレゼンテーションはもう少しだけ難しいのです。