英仏の「2040年」の目標は政治的
【安井】でも欧州ではEV化の動きが激しくなっていませんか。
【清水】フォルクスワーゲン(VW)のディーゼル車の排ガス不正問題がパンドラの箱を開けたからです。もともと欧州の排ガス規制は甘かった。欧州は緯度が高くて日本のように光化学スモッグが出にくいのでNOxに対する規制は緩かった。いまはようやく厳しくなりましたが。一方、温暖化で氷河が溶けているということは欧州では身近な現象だったのでCO2(二酸化炭素)に対する規制は厳しかったのです。
【安井】VWの排ガス不正問題で、欧州でも排ガス問題に厳しく世論の目が向いてしまったということですね。
【清水】最新の基準は日米と同じくらいNOx(窒素酸化物)を厳しく規制するようになりましたが、欧州の過去の基準はNOxは甘かったのです。そのために、昔の規制で認可されたディーゼル車がまだ多く走っています。古いディーゼル車から新車にすればインセンティブを出していますが、今回のVWの不正で世論に火が付き、「一気にEVに移行せよ」と勢いがついたわけです。
【安井】ところがEVの実力をみるとガソリン車やディーゼル車を総入れ替えできるほどではないように思います。もちろん今後、予想もしないような技術が生まれ、課題を克服することもあるでしょうが、英国やフランスが宣言した2040年までにすべての新車をEVにするという目標はどうなると見ていますか。
【清水】見直されると思います。ただEVを否定しているわけではありません。EVにはいいところもたくさんある。次回以降でお話しますが、水素を燃料とする燃料電池車(FCV)の利点もあります。EVと言ってもバッテリーとモーターだけのEVだけでなく、日産ノート(e-POWER)のようにエンジンを使って発電し、モーターで動くクルマもありますし、EVに小さなエンジンを発電機として使うレンジエクステンダー型EVもあります。いろんな形の電動化したクルマが適材適所で使われるということだと思います。クルマの世界が一種類のクルマで支配され、一色になるという将来像は間違っていると思います。
モータージャーナリスト
1954年生まれ。武蔵工業大学電子通信工学科卒業。1972年に自動車ラリーにデビューして以来、プロレースドライバーとして、国内外の耐久レースに出場。同時にモータージャーナリストとして、自動車の運動理論・安全技術・環境技術などを中心に多方面のメディアで活躍している。日本自動車研究所客員研究員。
安井 孝之(やすい・たかゆき)
Gemba Lab代表、フリー記者、元朝日新聞編集委員
1957年生まれ。早稲田大学理工学部卒業、東京工業大学大学院修了。日経ビジネス記者を経て88年朝日新聞社に入社。東京経済部次長を経て、2005年編集委員。17年Gemba Lab株式会社を設立、フリー記者に。日本記者クラブ企画委員。著書に『これからの優良企業』(PHP研究所)などがある。