自動車業界を根本から変える技術として注目を集める「自動運転」。世界各地で研究が進むなかで、「事故の責任」については結論が出ていない。日本などは「自動運転時でも運転者に責任」としているが、ドイツは法改正で「自動運転システムに事故の責任がある」と踏み込み、公道走行を後押しする。日本の課題は何か? 元レーシングドライバーで自動車評論家の桃田健史氏が解説する。

議論している間に内容が古くなってしまう

自動車業界で今、最もホットな話題は自動運転だ。経営者も、エンジニアも、大学の研究者も、そしてメディアも、AI(人工知能)やEV(電気自動車)と自動運転を絡めて、自動車の未来を語ることが多い。

しかし、往々にして、そうした議論はピンボケしている。なぜならば、自動運転に関する世界各国での動きが流動的で、いち企業やいち行政機関では現状把握することが難しく、社内や省内で議論している内容がドンドン古くなってしまうからだ。

筆者は定常的に世界各地を巡り、自動運転を含む自動車産業の最新動向を追っている。自動車メーカー各社の幹部や行政機関の関係者とコンフィデンシャルな意見交換をすることも多い。

本稿では、自動運転に対して一般の方から聞かれることが多い質問に答えるという形式で、自動運転の現状と今後の課題を紹介する。

レクサス新型LSが自動で車線変更を行う様子(写真提供:レクサスインターナショナル)

どのメーカーが自動運転で進んでいるのか?

結論からいうと、自動車メーカーというくくりでは評価できない。

あえて言うなら、リーダーはジャーマン3 (ダイムラー、BMW、VWグループ)だ。なぜならば、自動車技術の歴史はジャーマン3の歴史とほぼ同じであり、新しい技術領域に対して彼らは常に「リーダーであり続ける」ために手段を選ばないからだ。

近年の自動運転バブルともいえる状況下でも、ジャーマン3はドイツの自動車部品大手のボッシュとコンチネンタルを“操りながら”、高精度三次元地図の大手である独Here(ヒア)に3社共同で投資し、米インテルや米エヌビディアなどの大手半導体メーカーを巻き込んで、そしてジャーマン3のお得意さまである中国政府と水面下で絶妙な駆け引きをしながら、自動車産業界でのリーダーとして君臨し続けようとしている。

また、ジャーマン3は日本に対する「政治外交」もうまい。今年3月の独ハノーバーで行われた、安倍首相とメルケル首相とのトップ会談に絡めて、自動運転に不可欠な高精度三次元地図などIoT(インターネット・オブ・シングス/物のインターネット化)での日独の連携を『ハノーバー宣言』として明文化した。これは、自動運転の技術について、ジャーマン3の日系ビック3 (トヨタ、ホンダ、日産)に対する影響力が高まったことを意味する。実際、トヨタは自動運転につながる高度な運転支援システムにおいて、トヨタの子会社であるデンソーの他、独コンチネンタルからの受注を今後さらに増やす傾向が見られる。

ジャーマン3以外での世界の動きとしては、米デトロイト3 (GM、フォード、FCA≪フィアット・クライスラー・オートモービル≫)が、シリコンバレーのITメーカーや、ライドシェアリング大手との連携が目立つなど、自動運転のサービス事業化を重視している。

この他、中国は最近、共産党本部が主導する自動車業界再編もささやかれる中、自動運転をきっかけに、自動車産業のデータ産業への転換を狙っているように見える。

Googleから分離した「Waymo」の自動運転車