最近、全国各地で自動運転のテストが始まるという話があるが?
ここまで見てきたように、技術の領域でも、法律の領域でも、日本の立場は“微妙”だ。
日本でも、警察庁が定めた自動運転の公道テストに対するガイドラインを踏まえて、全国各地で実証試験が行われており、2017年度はその数がさらに拡大する。各実証実験の目的は、「バスやトラックなど商用車の自動化」「高齢化が進む地域の生活改善」「観光地での移動手段」などバラバラで、大きく4つのグループに分かれている。以下に、それらをまとめた。
(1)SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)
戦略的イノベーション創造プログラム、略称をSIPという。政府主導で産学官連携による次世代産業創出を狙うもので、その一つがSIP-adus (オートメーション・ドライビング・フォー・ユニバーサル・サービス)だ。内閣府が統括する形で、関係各省庁を横串にする国家プロジェクト。メインテーマは、東京オリンピックパラリンピックに向けた東京湾岸地域と首都圏の高速道路での実証試験で、都心での自動運転バスや、東名・新東名・常磐自動車道の一部の300キロメートルを使った大型トラック3台による自動追従走行がある。
(2) 内閣府 国家戦略特区
SIPと同じく内閣府が取りまとめているが、SIPとは違う枠組み。全国各地に特区制度を活用した実証試験の動きがあるが、中でも積極的なのは愛知県。
(3)国土交通省
道路局が中心となり、北海道から九州まで全国13カ所の“道の駅”で、完全自動運転の実証試験を行う。主な目的は、高齢化が進む中山間地域での生活改善。
(4)経済産業省
製造産業局が中心となり、観光地や中山間地域での生活改善を目指す、ラストマイル自動走行。ラストマイルとは、駅やバス停から自宅や事業所まで残り1~2キロメートル程度の距離の移動を指す。全国4カ所で実施。
以上4つはいずれも国が主導するものであり、この他にも、自動車メーカー各社や大学などの研究機関が独自に、全国各地で自動運転の実証試験を行っている。
日本のように多種多様な内容での実証試験を行っている国はまれであり、自動車メーカー関係者は「日本は自動運転の公道実験が世界一やりやすい環境にある」と語る。日本の実証実験はバラバラと行われているが、実験の数だけ多くても、とても実用化には近づかない。
多様な視点から自動運転を考えてみると、日本が過去にさまざまな産業で味わってきた『先行技術開発で勝って、事業で負ける』という苦い思い出がよみがえってくる。
日本は、技術では世界と互角に戦える可能性が高い。ただし自動運転のキモとなるビックデータについてはアマゾン、グーグル、マイクロソフトなど巨大IT企業との協業が不可欠。また法整備については国連やアメリカの動向を見守るしかない立場であり、今後デファクトスタンダードを狙うためには大きなハードルがある。世界各国で取材をしながら、筆者はそう感じている。