「1年を通して櫛田入りのメンバー全員で集まって、速くなるにはどうしたらいいかを話し合ってきました。4年目でついに1位をとったときは僕らも号泣しましたけど、先輩たちも泣いて喜んでくれました。いつも学校で『西流は遅いもんね』と言われて悔しい思いをしていた小学生もうれしそうでした」

「出させていただく」気持ちで

今年はふくやの社員になって初めての山笠だった。

4月に入社してからは、赤手拭のメンバーによるLINEグループに返信するのが遅れ気味になった。返信できずにいるうちに、ほかの赤手拭たちで物事が決まっていく。休みの日の打ち合わせでも、つい気が引けてしまうときがあり、正直、悔しい。

「でも、実際に動いて結果を出してるヤツがいちばん偉いんで。どうやって仕事とバランスをとるか、苦戦中です」

6月まで続いた新人研修が終わり、7月1日に飲食店担当営業に配属された。

「配属されたばかりの新人が休むのは特別なことだと思います。人事部長からは『山笠に出させていただく、ありがとうという気持ちを忘れるな』と言われました」

山笠は、支えてくれている人がいて成り立っている――。

山笠に出続けている人が、よく口にする言葉だ。

「詰め所を提供してくれる町内、直会に料理を出してくれる飲食店、参加を認めてくれる会社。こうした全てに感謝して山を舁くようになりました」

と、岡崎は言った。

「自分たちの町内の詰め所の前を通るときは、その町内のメンバーで山を舁きます。ほかの町内の詰め所の前を通るときには、その町内のメンバーに山を託します。町内の人たちのためにという気持ちは、本当なんです」

「学歴ではない。地域への思いがもてるか」と語るふくや社長、川原武浩(撮影・比田勝大直)

岡崎は、いつの間にか先輩の思いを受け継いでいた。

社長の川原武浩が、こう言葉を添えた。

「会社での伸びしろに学歴は100パーセント関係ありません。それより大事なことは、地域への思いを持てるか、です」 

=文中敬称略

 

▼第2回:山のぼせ「ふくや」物語(2)「山笠と仕事の両立」に悩む博多男の純情
http://president.jp/articles/-/22823
▼第3回:山のぼせ「ふくや」物語(3)中州の男が熱中する"博多山笠"の理不尽さ
http://president.jp/articles/-/22824

記者:三宅 玲子(みやけ・れいこ)
ノンフィクションライター。1967年熊本県生まれ。「人物と世の中」をテーマに取材。2009~14年北京在住。ニュースにならない中国人のストーリーを集積するソーシャルプロジェクト「BillionBeats」運営。福岡・住吉の夜間保育園「どろんこ保育園」のノンフィクションを今秋上梓予定。
(記者:三宅玲子 撮影=佐藤桂一、比田勝大直)
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