いずれにせよ、朝鮮戦争で犠牲になった韓国の民間人の相当部分が、北朝鮮軍によって殺されたのではなく、自国の政府によって殺されたことを忘れてはならないでしょう。(金東椿氏は、北朝鮮軍がのちに国連軍によって北へと押し戻される際、同様の規模で「南の協力者」の集団処刑を行ったとも推測しています)

この大量処刑で、政府批判はピタリと静まります。政府にとって、この措置は極めて効果的であったのです。

危機は敵・味方区別なく、あらゆる存在を「脅威」に変えてしまいます。脅威が脅威を呼ぶ負の連鎖の中で冤罪(えんざい)が巻き起こり、必然的に、多くの犠牲者が発生します。

ようやく応援のアメリカ軍が来たが……

韓国政府が釜山へ移った7月2日以降、待ちに待ったアメリカ軍の部隊投入が始まります。「アメリカ軍が来ればもう安心だ」と李承晩は手放しで喜んだといいます。

ところが、アメリカ軍は士気の高かった北朝鮮軍に各地で敗退しました。アメリカ軍では第2次世界大戦の終結時に多くのベテラン軍人が退役しており、急ごしらえの実戦経験のない部隊が編入され、士気も低かったのです。

アメリカ軍は大田(テジョン、韓国中部の都市)で大敗すると、釜山まで撤退します。その際、北朝鮮軍によりアメリカ兵捕虜が虐殺される「303高地の虐殺」が起きています。北朝鮮の金日成は、「解放記念日」の8月15日までに釜山を陥落させて朝鮮半島を統一すべし、と声明を発表します。

焦った李承晩は日本の山口県に亡命政府を受け入れてもらうよう、日本と交渉を始めています。大の日本嫌いであったにもかかわらず、日本に助けを求めたのですから、まさに恥も外聞もありません。

しかし、当初は敗退し続けていたアメリカ軍も、釜山近郊でようやく北朝鮮軍を押し返しはじめました。「アメリカに助けてもらう」という李承晩のもくろみは、何とかギリギリのところで達成されたのです。

宇山卓栄(うやま・たくえい)
1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。個人投資家として新興国の株式・債券に投資し、「自分の目で見て歩く」をモットーに世界各国を旅する。おもな著書に、『世界一おもしろい世界史の授業』(KADOKAWA)、『経済を読み解くための宗教史』(KADOKAWA)、『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)、『“しくじり”から学ぶ世界史』 (三笠書房) などがある。
(写真=ROGER_VIOLLET)
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