「創業家の重し」が、質と量を両立

この映画を観た人は、いろんな感想を持つと思います。ハンバーガー事業の基本型をつくりながら、クロックに“果実”の大部分を持っていかれたマクドナルド兄弟に思い入れをする人もいるでしょう。日本的な表現でいえば「ひさしを貸して母屋を取られる」――。映画でもディック・マクドナルド(弟)が、「ニワトリ小屋にオオカミを入れた」と嘆くシーンが出てきます。

でも私は、マクドナルド兄弟がいたから、クロックも質と量を両立した巨大ハンバーガーチェーンを築き上げることができたと思うのです。それまで「マルチミキサー」という機械のセールスマンだったクロックは、当初はハンバーガーという「商品」よりも、事業の「システム」に興味を持ちました。チェーン店は100店や200店までは信頼を重ねながら展開していきます。ブルドーザーのように突き進むクロックに対して、マクドナルド兄弟という「創業家」が重しとなった。そうでなければ金儲けの手段として使われ、ブランドも崩壊したでしょう。

余談ですが、ロイヤルHDを築き上げた江頭匡一さん(故人。元社長、会長)も、経営の第一線を退いてからは「ファウンダー」(創業者)という肩書にこだわりました。手塩にかけた事業の行く末を見守る創業者の思い……。私も、そうした“重し”を意識しつつ、来店客に満足いただける外食店を追求していきたいと思います。

菊地 唯夫 (きくち・ただお)
日本フードサービス協会会長・ロイヤルホールディングス会長兼CEO
1965年神奈川県横浜市生まれ。88年早稲田大学卒業後、日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)入行。2000年ドイツ証券。04年ロイヤルホールディングスに入社し、10年3月に同社社長。16年3月から会長兼CEO(最高経営責任者)。同年5月から外食産業の業界団体、日本フードサービス協会会長に就任した。
(構成=経済ジャーナリスト 高井尚之)
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