「争点にならないことは持ち込まない」と決めた

丁寧ということもできるが、事件とあまり関係なさそうなことも審理されがちで、間延びした印象は拭えず、日本の裁判は判決までに要する時間が長すぎると言われ続けていた。

それが2005年に「公判前整理手続」が実施されると、劇的に変わった。

実施の背景には、4年後に控えた裁判員制度の開始があった。裁判員制度では、特定の刑事裁判に一般市民が裁判員として参加することになる。だが裁判の期間中は仕事などを休まなければいけない。このため裁判期間の長期化を避けようと、裁判が始まる前に事件の争点や証拠を整理し、審理を計画的かつスムーズに進める「公判前整理手続」が先行して導入された。

では、それまでの裁判と何がどう違うのか。おもなポイントを挙げてみよう。

(1)争点にならないことは持ち込まない
事前の打ち合わせで検察と被告人側の主張が違う点(争点)をあぶり出し、それについて集中的に審理する
(2)互いに手の内をさらす
証人として出廷するのは誰かなど、互いの”持ち札”をオープンにする
(3)後出しジャンケン禁止
裁判が始まってから、「やっぱり自白を強要された」といい出したり、急に新証人を呼ぶことは基本的に許されない

▼ダラダラ裁判は今や昔。短期集中で時間効率アップ

このルールにのっとって情報を出し合い、双方が準備をして本番に臨む。判決の行方は、争点をどちらが有利に導くかにかかっており、検察も弁護人もそこに集中すればいい。傍聴人にとっては事件のディテールを知るチャンスが失われるが、効率という点では格段にアップする。

時短の面からも、あらかじめ何日間で判決に達するか予測が立てられるのが大きい。施行した当初は、駆け引きがしづらくなったなど弁護人の不満も耳にしたけれど、最近はそれも収まり、定着してきた感がある。裁判員裁判のため渋々従うのではなく、新しい仕組みに司法全体が慣れてきたからでもあるだろう。

ダラダラしていた裁判を時短成功に導いた公判前整理手続。具体的には以下のような変化が起きたと考えられる。

・公判ごとに準備に追われる→準備の時間を事前に取る
・準備では広く浅く全体をカバー→争点に総力を投入
・こま切れで審理の回数が多い→短期集中
・双方が納得するまで続く審理→全体の時間枠が決まっている