もうひとつ、新しくしたことがある。約27年前の創刊以来、「食こそエンターテインメント」を基本コンセプトにし、表紙にも毎号記載してきたが、8月号からは表紙に「『知る』はおいしい。」という新たなコンセプトを掲げる。基本的な考え方は変わっていないものの、「食こそエンターテインメント」を認知してもらう役割はある程度は果たしたと思う。これからは、さらにちょっと深く知ることで、さらに美味しく、もっと楽しくなる、ということを提案していきたいと思っている。
「知る」ことで、食の楽しみが大きく広がる
たとえば、店で食べているときに、食材の産地や生産者のことを少しでもイメージできればより美味しく感じるはず。塩や胡椒の使い分けを知って料理をつくれば、いつもの一皿がさらに美味しくなるはずだ。「知る」ことで、食の楽しみが大きく広がる。ということを新しいdancyuでは提案していきたい。
余談だが、鮨屋で「はい、大間の鮪です!」などと言って握りを出す職人が増えている。これは親切な説明である一方、「知る」という食の楽しみを半減させているような気がする。食べ手はその一言で「ああ、大間の鮪だから美味しいんだ」と思う。食べる前に味のイメージができてしまうのだ。黙って出された握りが旨いと思ったら「これ美味しいですねえ! どこの鮪ですか?」と聞き、それによって職人が「これは大間の一本釣りで、青魚をたくさん食べているので脂がのっていて……」などと説明する。こうした会話によって「知る」ことが、食の楽しみをさらに広げてくれると思う。また、こうした会話ができるようになれば、鮨屋が怖くなくなり(?)、心から楽しめるようになるはずだ。
dancyuという人格を持った紙媒体が本音で食の楽しさを提案し、ちょっと「知る」ことでその楽しさがさらに深くなることをお手伝いする。そんな食雑誌を目指したいと思っている。「情熱大陸」に負けないくらいの情熱を持って。