「副業OK」は長時間労働や働き過ぎにつながる?
私の印象では、企業の人事担当者の多くは、どちらかといえば以前に比べて社員の副業を容認していこうという姿勢だ。
しかし、今の会社以外に副業を持つと、それだけ労働時間が長くなる。働き方改革で長時間労働の是正をしているのに、副業によって長時間労働になってしまうのではないか、またそれによって病気やケガも発生するのではないかという疑問を持つ人もいるだろう。
実はその疑念について、政府は具体的には何も答えていない。人事担当者が共通して懸念するのもこの点だ。つまり、副業による労働時間管理や労働災害など会社と社員に発生するデメリットである。
例えば本業のA社とは別にB社で働くことになった場合、労働時間をどう管理するかという問題が起こる。2社に雇用されて働く場合、労働時間を通算することが法律で定められている(労基法38条1項)。仮に副業を認めてもA社で法定労働時間の8時間働いた後、B社で働くことになればB社が超過分の割増賃金(残業代)を払わなくてはならなくなる。
食品会社の法務担当者は「労基法は副業を前提に立法されていないので、通算するのは当然だし、健康配慮も当たり前。複数の会社でどちらが安全配慮義務を負うのか、責任の度合いも不明確になりそうだ」と指摘する。
副業で働き過ぎ、過労死したらどうなるのか
労働時間の管理は残業代を払わせるためだけではない。長時間労働による健康を損なうことを防止する目的もある。法務担当者が問題にするのは過重労働で過労死した場合のケースだ。労災保険の補償が受けられる過労死認定基準は月平均80時間を超えて働いていた事実が要件になる。ところが2社で働き、残業時間が80時間を超えていても認定されない。
現状では一つの会社の労働時間でしか判断されない仕組みになっている。亡くなっても労災認定を受けられず、残された本人の遺族は救済されないことになってしまう。
過労死までに至らなくてもA社、B社のどちらかの業務が原因で健康を害する場合もあるだろう。住宅設備メーカーの人事部長は「どちらの業務が原因で健康を害したのか判断がつきにくくなると思う。現状では本業と副業の労働時間管理をはじめ、労働実態まで把握していないので、副業を認めるとなると、さまざまな制度の見直しが発生するのではないか」と指摘する。
副業推進といっても、社員にとってはこうした目に見えないリスクが解決されないままで放置されているのが現状だ。兼業・副業を積極的に推進していこうとするのであれば、法改正を含めて会社と社員のデメリットを解消しない限り、多くの会社が積極的に動くことはないだろう。