副業・兼業肯定派企業の意見

一方、副業を積極的に容認していこうという企業も徐々に増えている。ロート製薬は2016年2月、社員が週末などに副業することを認める「社外チャレンジワーク制度」を導入している。対象は入社3年目以降の社員で、就業時間外や休日を使うなど本業に支障を来さないことが条件。ベンチャー精神と行動力を持った社員をどう育てるのかという議論の中で生まれたものだが、その狙いは「企業の枠を超えて働くことで社内では得られない大きな経験を通じて自立した人材を育てる」ことにある。

狙いはキャリア形成など人材育成につなげようとするものだ。その他にも副業を認めれば、社員がやりたいことがやれて離職を防ぐという効果と同時に特定スキルを持つ人材の採用力強化にも役立つという指摘もある。

人事担当者はどう見る?

政府や一部の副業推進に向けた動きについて、企業の人事担当者はどう見ているのだろうか。いくつか声を紹介しよう。

「就業規則で、会社の許可を受けず在籍のまま他に雇用されたり、企業の役員になったりすることを禁止している。技術職が多い会社なので、機密情報やノウハウの漏洩につながるし、現職に専念できなくなる恐れもあるからだ。また、副業や兼業の収入が多くなれば、本業の給与に関わる人事評価も気にしなくなる可能性もある。業界・業種によっては今後、副業を容認していく方向になるのではないか。働き方改革の一環として公平適正なルールを決めて、自社で責任をもって運用可能であればよいと思う」(大手住宅設備メーカーの人事部長)

「副業の申請があれば事案ごとに認めるという緩やかな禁止にしている。例えば家主、出版、講演などは認めている。副業については、すでに自宅で週末トレーダーをしている人がいるのが現実。現実に近づけるという意味で、方向性はよい。ただし、自立した社員でないと問題も発生しそうなので、当面は職種に限って求めていく方向がよいのではないか」(事務機器販売会社の人事課長)

大手食品会社の法務部員は政府の「副業推進」に反対の立場だという。

「社員の健康管理、職務専念義務、競合への機密情報漏洩リスクを念頭に、就業規則で『許可なく他社の役員・従業員になることを禁じる』として許可制にしている。認められた事例としては大学の要請による客員教授、自営のファストフードフランチャイズ会社の取締役などがあり、社外セミナーの講師などアルバイト程度の副業は認めている。だが、わざわざ他社で働くことを推奨する必要はなく、キャリア形成や知識の醸成には別の方法があると思う。一つの会社の業務に全力投球を要求し、副業でも全力投球を要求されると、疲労が蓄積し、長時間労働になるのは確実だ」(大手食品会社の法務部員)

一方、IT企業の人事部長は政府の副業推進に全面的に賛同する。

「これだけ世の中が速いスピードで回っているなかで、終身雇用を前提としたやり方は難しくなっている。社員も安定的に1社で働きたいと思っても、企業の事情でできなくなる事態もあり得る。そうなると自身の雇用(キャリア)は自分で守ることが重要になる。副業は、本業の給与に加えて、他社の仕事で給与を確保することで、生涯賃金を上げる機会にもつながる。日本全体にとっても、労働力人口が減少するなかでスペシャルスキルを有する人が一つの企業に限らず横展開で活躍できるようになれば、スキル・ナレッジを共有化することで生産性も高まるのではないかと思う」(IT企業の人事部長)