Uberの運転手が強盗に遭いにくい理由
現金を使わないキャッシュレス社会のメリットは利便性以外にもさまざまある。そもそもお金という現物を社会に流通させること自体にコストがかかっているわけで、キャッシュレス化によってそれが大幅に削減できる。企業活動においてもキャッシュレス化によって現金決済に付帯する間接業務を減らせるから、効率化、省力化が可能になる。小売り店舗や銀行にとっては直接的に現金の取り扱いコストの削減につながる。国からすれば資金決済の透明性が確保できるメリットも大きい。インドの例で説明したように、匿名性が高く、使用履歴が残らない現金は不正蓄財や脱税、マネーロンダリング(資金洗浄)などの犯罪の温床になりやすい。電子マネーによる決済はすべて履歴が残るので、資金決済の流れを監視しやすい。当然、税金の補捉率も上がる。これも国家がキャッシュレス化に熱心に取り組む理由の一つだ。
犯罪防止の観点でいえば、やはりキャッシュレスのほうが犯罪被害に遭うリスクは低い。実際、スウェーデンでは盗難や窃盗は減っているという。銀行に現金が置いてなければ銀行強盗もしようがない。配車アプリ「Uber」のタクシーは乗車賃をスマホで決済できる手軽さが人気だが、売り上げや釣り銭を持ち合わせていないUberの運転手はタクシー強盗に遭いにくいという。一方、電子決済には犯罪の抑止効果もある。決済トラブルを起こしたユーザーはシステムからはじかれて電子決済ができなくなる。
世界的なキャッシュレス化の流れは日本にも波及しているものの、わが国では現金信仰が根強い。日本のGDPに対するキャッシュレス率は17%で、いまだに現金取引が有り難がられる。しかし、キャッシュレス化の遅れによる機会損失は決して少なくない。たとえば訪日インバウンドが急増する昨今、キャッシュレスに慣れ親しんだ外国人旅行客はこれから確実に増える。それらのインバウンド消費を取り込むためには、キャッシュレス化をさらに進める必要があるだろう。政府は14年6月に閣議決定した「日本再興戦略」で、「2020年に向けたキャッシュレス決済の普及による決済の利便性・効率性向上」を掲げている。もちろん20年東京オリンピック・パラリンピック開催を踏まえたものだが、日本人がキャッシュレス社会のメリットを本当に享受するには、「その先」を見据えたクレジットカードを経由しない直接口座から引き落とすという取り組みが求められる。