ドトールのほうが「コスパ」がいい

一方、3年連続で顧客満足1位となったドトール。近年の取り組みの成果は後述するが、筆者は「スタバが低下した結果、浮上したブランド」だと考えている。

2010年、ドトールはブランド30周年の節目に「白ドトール」戦略をはじめた。狙いは「狭い、古い、たばこ臭い」というオヤジチックなイメージの払拭だった。基調となる色を「白」として、分煙設備による「完全分煙」を実施。広さと奥行きを感じさせる空間づくりを目指した。この結果、非喫煙者からの評価を上げた。「好きなカフェはドトールです。広くて落ち着けますから」(非喫煙者の20歳女子学生)という声は、以前は耳にしたことすらなかった。

「白ドトール」の店舗(東京都渋谷区)

ドトールは「価格の安さ」という強みもある。分量は違うが、スタバのドリップコーヒー(ショートサイズ)が302円(以下、税込み)なのに対し、利用客の6割が頼むというドトールのブレンドコーヒー(S)は220円。開業以来の看板商品・ジャーマンドッグ(200円)を頼んでも440円と、ワンコイン(500円玉)でお釣りがくる。コーヒーに生ケーキなどのデザートを追加しても、スタバのフラペチーノ系ドリンクと価格は同じか、安いぐらいだ。前述の40代女性はこうも話していた。

「スタバでフラペチーノを飲むぐらいなら、ドトールでケーキセットを頼みます。フラペチーノは、甘くてカロリーが高い。ドトールのケーキは甘さ控えめで、カロリーも低い。年齢とともにそうした点も気になるようになりました」

スタバが今年6月から販売している期間限定商品「チョコレート ケーキ トップ フラペチーノ withコーヒーショット」(トールサイズで670円)は、ミルクを低脂肪や無脂肪に変えても500キロカロリーを超えてしまう。ドトールの「ミルクレープ」(360円)なら260キロカロリーだ。

「意識高い系」への嫌悪感

スターバックスは15年5月の鳥取県進出により、国内の全47都道府県に店舗があるようになった。1号店を東京・銀座の松屋通り店(スタバマニアの間で「銀松」と呼ばれた店)に開業して以来、全国に1100店を超えたスタバはカフェの代名詞となった。

スタバが全国展開を拡大していた当時、筆者はスタバが「憧れの存在」から「日常生活の一部」になりつつあると感じた。案の定、現在は利用客の目線も、憧れという“下から目線”ではなく、クールな“横から目線”に変わった。20代後半の女性(メーカー勤務)は、こんな意見だった。

「私はスタバも行くけど、基本的にタリーズ派。近くに2店舗あったらタリーズを選びます。理由の1つは、タリーズのドリンクが好きなことで、もう1つの理由は『スタバにいる、おしゃれな自分が好き』とファッション意識で考えている人が多いように見えるから。同じくくりにされたくないという心理もあります」

いわゆる“意識高い系”への嫌悪感だが、「一時期に比べて、先のとがった靴を履いてマックブックをカタカタ打つ客は減ったのではないか」(50代の男性編集者)という意見もある。いずれにせよ、一度そうしたイメージがつくと、しばらくそう思われるのだろう。

冒頭で紹介したように、店への期待値は下がっていない。前述したスタバのバイト歴3年の女性は「今でも大好きなブランド」と話し、企業の採用現場では「接客がきちんとしたスターバックスのアルバイト経験を続けてきた人は、その点では高評価」という声もある。

いまは一生懸命働いても思うように給料が上がらない時代だ。生活に余裕のある人は決して多くない。以前に比べて欧米ブランドへの「憧れ」も薄れ、「日常生活」でのコストパフォーマンスが重視されるようになっている。だからこそ、「カッコつけるのが、カッコ悪い」という逆説が成り立つのだろう。その意味で、スタバは「踊り場」を迎えたのかもしれない。

高井 尚之(たかい・なおゆき/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(プレジデント社)がある。
(撮影=宇佐美利明(スタバ)、高井尚之(セブンカフェ、ドトール))
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