知識や腕前で「かかりつけ医」を選ぶな

最後にかかりつけ医の選び方を解説しよう。かかりつけ医に期待するのは、普段から健康状態を相談し、大病をした時には適切な専門医に紹介して貰うことだ。専門医とは対照的に、幅広い知識とネットワークが必要になる。

どうすれば、いいかかりつけ医に出会えるだろう。私が重視するのは、医学的知識の多寡や医者としての腕ではない。高血圧や糖尿病などの一般的な管理は、普通の医師であれば、少し勉強すればできる。最新の情報をキャッチアップするのも、そんなに難しくない。

むしろ、重要なのは、何か問題が起こったときの対応能力だ。状況を適切に判断し、適当な専門医に紹介する実力だ。主治医には「エージェント」としての役割が求められるが、この能力には大きな個人差がある。

では、主治医には、どのような能力が求められるだろうか。重要なことは3つだ。柔軟に考えること、コミュニケーション力、IT機器を使いこなすことである。

柔軟に考えることは、主治医にとして極めて重要な素養だ。主治医は患者のエージェントだ。自分の価値観を押しつけず、患者の希望に沿って対応しなければならない。

エビデンスに基づく医療(Evidence-based Medicine)が全盛の昨今、患者の価値観よりも、エビデンスを優先する医師が珍しくない。柔軟に考えることは、皆さんが想像するよりもずっと難しい。

2つ目のポイントはコミュニケーション力だ。これは、多くの場合、広い人脈をもち社交的であることと同義だ。急病になったときに、いい病院に入院出来るか、救急車の中でたらい回しされるかは、主治医のコミュニケーション力に依存する部分が多い。社交性がない医師はかかりつけ医には向かない。

LINEを使わない医師は避けよ

最後に、私が医師選びで重視するのはICTを使うか否かだ。つまり、携帯電話やメール、フェイスブックやLINEなどのソーシャルメディアを、どの程度活用するかだ。ICTを使いこなしている医師は、何かあったときに容易にコンタクトできる。

これは単にIT機器を使うという意味だけではない。主治医と患者で携帯電話番号やメールアドレスを交換し合うだけの信頼関係を構築できるか否か、つまりコミュニケーション力と関係する。

私自身、自分がフォローしている患者には、必要だと判断すれば携帯電話やメールアドレスをお伝えする。また、親しくなった人の中にはフェイスブックで繋がった人もいる。

医師と患者はコミュニケーションを重ねて、信頼関係を築いていく。私は、主治医としての適格性を評価するときには、コミュニケーション力に加え、ICTを活用出来るか否かを評価のポイントとしている。

今後、首都圏の医療は急速に崩壊する。厚労省は「世界に冠たる国民皆保険」と言い続けるだろうが、医療サービスの提供量が不足し、誰もが希望する医療を受けることはできなくなる。おそらく、コネが幅を効かすことになるだろう。

そこで生き残るには、情報を集め、現状を冷静に分析し、自分の頭で考えることだ。拙著『病院は東京から破綻する 医師が「ゼロ」になる日』がお役に立てれば幸いである。

上 昌広(かみ・まさひろ)
医学博士。1968年兵庫県生まれ。1993年東京大学医学部医学科卒業、1999年東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。虎の門病院血液科医員、国立がんセンター中央病院薬物療法部医員、東京大学医科学研究所特任教授など歴任。2016年4月より特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所を立ち上げ、理事長に就任。医療関係者など約5万人が講読するメールマガジン「MRIC」編集長。
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