高齢になって心配なことのひとつに「骨折・転倒」がある。厚生労働省の調査によると要介護原因では「脳卒中」「老衰」に次いで第3位。東京都の調査では、女性の寝たきり原因の第1位が骨折だ。

骨折と転倒で寝たきりになるのは、骨強度が低下する骨粗鬆症が最大の原因。その骨粗鬆症患者は日本に約780万~1100万人と推定され、75歳以上の高齢女性の2人に1人がそうである。

骨強度の弱くなる骨粗鬆症は古い骨の破壊と新しい骨の形成のバランスが崩れ、骨の破壊が進むことで引き起こされる。骨強度とは骨密度と骨質のこと。骨は硬いだけでなく、衝撃を受けても折れにくいように骨質により弾力を持たせている。骨粗鬆症では骨密度と骨質が低下していく。

女性の場合は閉経後に女性ホルモンの分泌が減少するので骨の破壊は加速し、新しい骨の形成は遅くなってしまう。結果として骨の破壊が進み、骨粗鬆症になりやすい。一方、男性の場合も年齢が高くなるにつれ、ゆっくりと骨粗鬆症は進むので、注意が必要である。

さて、寝たきりに結びつく骨粗鬆症の治療は、「運動・日光浴」「食生活」「薬物療法」が三本柱。

薬物療法で使われる薬には「ビスホスホネート製剤」や「選択的エストロゲン受容体作動薬(SERM=サーム)」などがある。どちらも骨が壊れるのを抑える薬であるが、第一選択薬はビスホスホネート製剤である。

第一選択薬として支持されるように、ビスホスホネート製剤の有効性は高い。国際宇宙ステーションに長期滞在の宇宙飛行士・若田光一さんはその薬を投与して、長期滞在ミッション前後の骨密度を調べる試みを行っている。なにしろ、無重力の宇宙では骨のカルシウム量が減少し、6カ月間で9%も骨密度が低下してしまう。治療薬の効果は、のちのち明らかになる。

人気のビスホスホネート製剤の中に、2009年4月、またひとつ新しい薬が加わった。「ボノテオ錠」である。日本発の薬で、これまでの薬以上に骨折抑制効果が高いと評価されている。

その治験(薬の効果をヒトで試験する)は55歳以上81歳未満の椎体骨折のある閉経後の骨粗鬆症患者704人を対象に行われた。ボノテオ錠服用群とプラセボ(偽薬)群に分け、1日1回経口投与し、104週間の期間中に発生した椎体骨折をカウント。プラセボ群の累積椎体骨折発生率が24%に対し、ボノテオ群は10.4%。ボノテオ錠の骨折抑制効果は59%を示したのである。ビスホスホネート製剤でも50%が限界と思われていただけに、薬物療法を必要とする患者にとって心強い数字といえる。

【生活習慣のワンポイント】

治療の三本柱のうち「運動・日光浴」「食生活」はそのまま骨粗鬆症の予防策でもある。

●運動は散歩がてらのウオーキング、テレビを見ながら背骨を少し反らせる背中の体操、台所仕事のときに茶わんを洗いながらかかとをあげる、といった楽しみながらできる運動が長続きする。軽い運動でも筋肉や関節が強化されるとともに骨への刺激も加わり、骨の形成が促進される。もちろん、ウオーキング中に日光浴ができるので体内でビタミンDが合成される。

●食生活では不足しているカルシウムとビタミンDを十分に摂取する。カルシウムは骨の主材料で、ビタミンDはカルシウムの吸収を助けてくれる。

カルシウムの多い食材は牛乳、プロセスチーズ、豆腐、ワカサギ、小松菜、いわしなど。ビタミンDの多い食材は鮭、さんま、うなぎ、ひらめ、いさき、キクラゲなど。

そして、「禁煙」「適量飲酒」も骨粗鬆症予防には大きなポイントである。