「社用車」ではないレクサスを象徴するクルマ
「5年前にデトロイトのモーターショーに出した時は開発の予定がなかった。しかし、米国の販売店トップやお客さまからすごい反響をいただき、レクサスを唯一無二の存在としていくために開発に踏み出した。当初予定がなかったものを開発するのはまったく異例であり、レクサスのブランドイメージを高め、新しい方向性を出せると思っている」
トヨタ自動車は3月16日、都内のホテルでレクサスの新型ラグジュアリークーペ「LC」を発表。専務役員でレクサスインターナショナルの福市得雄プレジデントはこう話し、メルセデス・ベンツ、BMW、アウディのドイツ高級車ブランド、いわゆる「ジャーマン3」を追撃する姿勢を強調した。
V8型5リットルのガソリン車「LC500」と、V6型3.5リットルのハイブリッド車「LC500h」を用意し、価格は1300万円~1450万円。販売目標はグローバルで月間550台、うち国内が50台としている。海外については5月に米国、7月から欧州などと順次発売していく。
販売台数は少なく、経営の根幹を担う車種とはいえない。しかし、トヨタのLCにかける思いは熱い。開発責任者の佐藤恒治氏は「レクサスのクルマづくりを変える挑戦の象徴として、このクルマの開発に取り組んだ」と明かし、こう付け加えた。
「レクサスがよりエモーショナルなブランドになるために、お客さまの感性に訴えるデザインと走りを備えたブランドを象徴するラグジュアリークーペが必要だった。こだわったのは理屈抜きに格好良いデザインと気持ちのよい走り。スペックにこだわらずに感性価値を追及した」
2012年に米デトロイトモーターショーで公開したコンセプトカー「LF-LC」をベースに開発したLCは、アルミやカーボンなどの軽量の部材を使った新しいプラットフォームを採用。開発のキーワードは「より鋭く、より優雅」で、サスペンションはフロント、リアともに新開発した。軽量の部材を使うことで、ボディ剛性を高めながら約100kgの軽量化を実現している。そして、この新プラットフォームは今後のレクサスのFR(前部エンジン・後輪駆動)車で採用される予定だ。
製造は愛知県の元町工場が担う。この車種のために専用の組み立てラインを新設した。専用ラインは床や天井を白一色にして作業をしやすくすると同時に、一人ひとりの作業工程をタブレット端末で確認しながら行う。「7人の匠と呼ばれる専門技能士を中心にレクサスのモノづくりの技を磨き、1台1台こだわり抜いて、ひとつの作品として世に送り出される」(佐藤氏)。
なぜトヨタは世界で月間550台、国内では月間50台しか売れない新型クーペのために、ここまでのことをするのだろうか。その理由はもちろんブランド力の強化である。ジャーマン3と戦っていくためには、“社用車”としてではなく、レクサスを象徴するようなクルマが必要だったのだ。