堀紘一さん_マンション規制FV

課題は多いものの、株高が続き活気を取り戻しつつある日本経済、そして主役である日本企業。そこへ熱いエールを送り続けるのがボストン コンサルティング グループ(BCG)日本法人やドリームインキュベータを率いた“伝説のコンサルタント”堀紘一さんです。今回は、発足以来高支持率が続く高市早苗内閣への期待と不安を語っていただきます。

初対面は「朝まで生テレビ!」……高市さんとの長い付き合い

2025年10月4日の自民党総裁選で、高市早苗さんが新総裁に選出され、その後、公明党の政権離脱という波乱はあったものの、10月21日には第104代内閣総理大臣に任命されました。

今回の総裁選の前、「高市早苗は総理になれない」というのが新聞・テレビなどの大方のマスコミの見立てだったと思います。彼女が新総裁に選出され、日本初の女性首相誕生となったことを、みんな意外に思ったのではないでしょうか。

実は私は、高市さんとは長い付き合いです。

彼女が若い頃、「朝まで生テレビ!」という番組のパネリストとして、高市さんのテレビデビューの瞬間にも立ち会っています。「朝まで生テレビ!」は1987年にテレビ朝日系で放送が始まり、現在もBS朝日で放送が続いている長寿番組です。ご存じの通り、初期の頃から田原総一朗さんが司会を務めています。当初は午前1時から6時までの5時間、本当に「朝まで」議論していたものでした。

その番組に高市さんが呼ばれ、私はプロデューサーから、「高市さんはこれがテレビ初出演です。勝手がわからないだろうから、隣に座って盛り立ててやってもらえませんか」と頼まれたのです。以来、何かあると高市さんから相談が入るようになりました。

高市さんと私は16歳違い。最初に会ったとき彼女は20代半ばで、私は40代はじめでした。そのくらいの年齢差だと、相談しやすいのかもしれません。

奈良県生まれの高市さんは片道3時間かけて実家から神戸大学へ通ったそうです。学費を自分で稼がねばならなかったため、オートバイに乗ってコンパニオンのアルバイトを掛け持ちし、ホテルからホテルへバイクを飛ばして、他の女の子の2倍稼いでいたと聞きました。

行動範囲が非常に広く、大学ではロックバンドでドラムをたたいたりする一方、在学中に松下政経塾の入塾試験を受け、卒業してすぐに入塾、政治家を目指しました。松下政経塾では政治の勉強のためにアメリカ連邦議会に派遣され、女性議員の事務所で働いたそうです。また、「寝袋ひとつで野宿する」という課題をこなしたこともあるそうで、驚いて「女1人で野宿なんかして危なくないの」と尋ねると、「そんなもの怖がっていたら政治家にはなれませんよ」と答えました。志のためには苦労をものともしない根性を持ち合わせた人ですね。

高市さんはその後、テレビの情報番組のキャスターなども経験し、92年に地元の奈良県から参院選に出馬します。しかし自民党の公認を得られず、無所属で立候補して落選しました。

その時、私は「1回目の落選っていうのは財産なんだよ。日本人は優しいから、2回目に立候補した時には同情票が集まるからね。与謝野馨さんも初回は落選して、2回目で当選したんだ」と励ましました。これはその場だけの慰めではなくて、実際そうなのです。高市さんも落選の翌年、93年の衆院選に再度立候補し、やはり無所属ながら見事にトップ当選を果たしています。

歴代首相と異なり「はっきりものを言う」姿勢が共感呼ぶ

さて、マスメディアにとって総裁選を勝ち抜いたことが高市さんの第一の意外性だったとすれば、第二の意外性は選出された高市さんの支持率が非常に高かったことでしょう。

政権発足から2カ月たった2025年12月末の段階でも、60%台から70%台を維持しています。さすがにいずれは落ち着くと思いますが、それにしても歴代の政権と比べて高い支持を得ているし、大きな失敗がなければ当面は高支持率を維持できそうです。

いったい高市さんのどこが、それまでの歴代の総理と違っていたのでしょうか。

これは私見ですが、高い支持率の理由は第一に、高市首相が「はっきりものを言う」という点が大きいと感じます。

直近3代の首相──菅義偉氏、岸田文雄氏、石破茂氏を思い出してみてください。みな、自分の意見を明確にしようとしませんでした。国会での答弁を聞いていても、まるで社内に波風を立てないことを優先するサラリーマンのような、よくよく解釈すると後に何も残らないような言葉ばかり発していました。

日本の政治家はなかなか本音を言わず、大事な問題を決められません。言質を取られるのを警戒して、「のらりくらりやっていればいい」という感覚があるようで、見ているとイラッとします。「政治というのはそういうものだ」と彼らは思っているのかもしれませんが、それは我々国民をバカにした考え方でしょう。日本人には魂もあれば、日本人としての誇り、矜持というものがあります。日本のトップなのに何の意見も言わず、独自の哲学も感じられない人が何代も続いて、国民も嫌になってしまったのでしょう。

高市首相は少なくとも明確なスタンスを取る人です。「いい」とか「ダメ」とか、「好き」「嫌い」もはっきり言います。

これまで30%ぐらいしかなかった内閣支持率が政権が交替したとたんに2倍以上に急上昇したのは、高市首相が自分の意見を率直に口にしている結果と私は見ます。

意見は人それぞれなので、すべての政治問題について高市首相と同じ意見だという人は少ないでしょう。それでも支持率が70%もあるのは、意見が異なる人も含めて高市首相のそうした姿勢に共感しているからにほかなりません。

国防意識の変化も高支持率の背景に

高市内閣高支持率の理由の第二としては、「日本国民の国防意識が昔とは変わってきたこと」が挙げられます。

高市さんはメディアでは保守、あるいは右翼的であるとされています。

マスコミ的なレッテル貼りでは、そういうことになるかもしれません。高市首相は「政府は武力によって国民を守らなければいけないこともある」と、率直に認めているからです。そのことによって首相就任直後から中国による恫喝を受けることになりましたが、私の目にはむしろそうした、現実をありのままに認めるという高市首相の姿勢こそ、高支持率の大きな要因と映ります。

戦後の日本は平和主義で、自衛のためであれ「軍隊」の保有を禁じた憲法9条を不可侵のものとするのが文化人であり、進歩的とされてきました。しかし実際はそんなものが通用するほど世の中は甘くありません。一応、国際連合という組織はありますが、ガザやウクライナを見ても紛争を抑止する力としてはまったく機能していません。国連の安全保障理事会では第2次大戦の戦勝5カ国がいまだに拒否権を持っていて、気に入らない決議が出たら拒否するので、何も決められないのです。世界遺産を選ぶぐらいの無難なことならやりますが、ガザやウクライナでは侵攻してきた軍により市民が大勢死んでいるのに、何もできないでいます。

結局、世界は弱肉強食なのです。今、多くの日本人がそのことに気づいています。進歩的文化人が影響力を持っていた戦後の一時期とは違い、今や多くの国民が国防を重視する高市さんの姿勢を当然のことと受け止める時代になっています。

中国の“恫喝外交”で日本人が目を覚ました

日本人の国防意識の変化の要因は、「中国は良き隣人ではない」と認識するようになったことでしょう。

今回、中国が日本を恫喝するきっかけとなったのは、「台湾有事が発生した場合、(日本の集団的自衛権行使の前提となる)『存立危機事態』に該当しうる」とした高市首相の国会答弁です。この発言の内容は、これまでの日本政府の立場と何も違っていません。ただ、総理大臣が自らの言葉で言ったかどうかという違いは大きいでしょう。

その後に中国の駐大阪総領事による「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬のちゅうちょもなく斬ってやるしかない」という、領事が駐在国の首相に向ける言葉とは到底思えないSNSへの投稿があり、中国では日本の海産物の輸入を禁止したり、日本人アーティストの公演を強制中止にしたり、さらに日本で中国人が次々と襲われているなどというデマを流して渡航禁止にしたりしています。実に非科学的な反応ですが、それは日本人の中国への認識を再確認させる結果ともなりました。

中国は日本が隙を見せれば必ずつけ込んでくるでしょう。「尖閣諸島は古来中国の領土である」などと言っていますが、そんなことを言い出したのは尖閣諸島の周りに天然資源があることがわかってからです。それだけではなく彼らは「沖縄は日本のものではない。中国の朝貢国だった」とも言い出しました。沖縄の前身である琉球王国が中国に朝貢していたのは事実ですが、同時に日本(薩摩藩)にも朝貢していましたから、それだけをもって「中国のものだ」と決めつけるのは乱暴このうえないやり方です。

実はフィリピンやベトナムなどの周辺諸国は、中国から日本以上に理不尽な目にあわされています。例えば日本の海上保安庁にあたる中国海警局の船は、南シナ海でフィリピンの漁船に放水したり船をぶつけたりしています。日本の漁船も尖閣諸島周辺で脅されていますが、日本の漁船の場合はまだぶつけられたりすることはありません。それは日本の海上保安庁が比較的しっかりしているのと、バックに自衛隊がいて、日本がアメリカと同盟しているからです。武力が後ろに控えているからこそ、中国もめちゃくちゃなことはできないでいます。一方でフィリピンについては「軍は弱いし、漁船1隻ぐらいのことではアメリカ軍は出てこない」と見切っているので、やりたい放題にやっているわけです。

残念ながらそれが21世紀の東アジア情勢です。我々はそうした環境の中を生き抜いていかなければなりません。

高市政権は防衛装備移転三原則の運用指針を見直す方針を打ち出しており、おそらく高市政権の間に限定的な武器輸出が認められるようになるでしょう。

兵器は研究開発にお金がかかるので、なるべく生産数を多くしたほうが1体あたりの単価が安くなります。現在、オーストラリア向けにフリゲート艦を輸出するという話が出ていますが、それは日本のためにも、オーストラリアのためにも、またアジアの平和のためにもいいことだと私は考えます。

中国が国防費を減らすというならこちらも減らしていいでしょうが、現実にはその逆なのですから、油断するわけにはいきません。

男でも女でも、リーダーは「ちょっとワル」がいい

高市さんは日本初の女性首相ということで、世界的に注目されています。

リーダーとして女性はどうでしょうか。

男にしても誰でもいいわけでないのと同じで、女性政治家にも変な人もいればバカな人もいます。中には前伊東市長や前橋市長のような人もいますが、それでも総じて言えば女のリーダーのほうが優れているように、私は感じます。世界のリーダーを見渡しても、女性リーダーはイギリスのマーガレット・サッチャーといい、ドイツのアンゲラ・メルケルといい、しっかりしている人が多く、中途半端な男の政治家よりもいいと思います。最近では24年にメキシコ初の女性大統領となったクラウディア・シェインバウム・パルドさんも、私は高く評価しています。博士号を持つ科学者ということですが、トランプ政権への対応に関しては、見事だと思いますね。

よく「清濁併せのむ」と言いますが、リーダーは「清」だけでは使い物になりません。例えば東大を出てエリートコースを歩んできたような人は、若いうちにあまり「濁」な人たちと関わっていないものです。出世して社長になったところで、初めてそういう人たちの相手をしなければならなくなったりします。ところが経験がないと、対処のしかたがわかりません。

下半身の話で恐縮ですが、男性のリーダーを見ていると、どうも「性欲が強そうだな」と思われるくらいのほうが見込みがあります。浮気もしない清廉な人よりも、少しくらいは「ワル」なほうが政治家やリーダーには向いています。女性の場合はその「欲」が性欲ではなく別の方面に向くのでしょうが、少しくらい「ワル」なほうがいいという意味では同じです。

その点、高市さんはそれなりに「ワル」だと思います。これは法律を犯すとかそういった意味ではなくて、目的のために戦略を考え、「濁」な人も扱うことができるということです。逆に「頭はいいけれど、潔癖すぎる」という女性もいます。そういう人はあまり政治家には向いていないのです。

できる人とできない人を嗅ぎ分け、古い世代の感覚も理解する……高市流「賢さ」

高市さんのいいところは、良いものと悪いもの、できる人とできない人を嗅ぎ分ける嗅覚があるところです。出来の悪い人には深入りしない、そういう賢さがありました。

高市さんは勉強家でもあります。神戸大学は関東の人にはあまり知られていませんが、関西では京大、阪大と並ぶ名門国立大です。高市さんは神戸大と同時に慶應義塾大学と早稲田大学にも合格していて、高校時代にもしっかりと勉強していたことがうかがえます。

首相になってからも午前2時3時まで勉強していると聞きます。まあ夜中に役人を呼びつけたりしないようにしてほしいとは思いますが、首相になってからもそれだけがんばっているのは素晴らしいことでしょう。

国会の答弁も、何を言っているのかよくわからなかったこれまでの歴代総理と明らかに違って、きちんとしています。これも勉強の成果でしょう。

私は「日本は保守的なので、女の総理大臣は当分難しいだろうけれども、もしなるとしたら高市さんが一番その可能性があるだろう」とかねて思っていました。自分が主催していた財界人との勉強会で、「高市さんを総理にしては」という話をしたこともあります。しかしその人たちとは世代が離れすぎていて、「女の天皇とか女の総理とか、堀くんまでそういうことを言い出すのかね」と言われて、話はそれで終わりになってしまいました。

大事なことは、そういう古い世代の感覚も高市さんは理解しているということです。そしてあえて否定もしません。同性婚や夫婦別姓問題で保守的な見解を打ち出していることも、中高年男性からの反発を和らげています。

日本人はもともと保守的な民族です。私に言わせれば、世界の中で日本ほど保守的な国はないと言っていいほどです。それは必ずしも悪いことではなくて、だからこそ古き良きものが残っているという面があり、また日本的な行儀やしつけの伝統も残っています。

そうした国で、初の女性首相として国民の支持を受けるためにどのように振る舞う必要があるのか、高市さんはよく考えてきたのだと思います。

「積極財政」でいいのか……経済政策に一抹の不安あり

ただ「責任ある積極財政」という高市さんの経済政策は、私の目にはやや危なく映ります。誰がアドバイスしているのかと思いますが、財政支出を拡大し、大盤振る舞いでお金を使うという方向のようです。

積極財政をやると確かに景気は一時的には良くなりますし、人気か不人気かといったら人気政策ではあるのですが、長期的にはどうかと思います。

大盤振る舞いの財源がどこにあるのかといえば、そんなものはないわけです。結局、国債を増発することになります。国債とは国の借金証書です。借金証書を今出して、使うのは今の人、返済するのは後世の若者です。今の若い人はそれでなくても人口が少なくて、例えば戦後すぐの1947年生まれの人は267万人いますが、2024年生まれの人は68万人しかいません。ベビーブーム最盛期の1/4しか若い世代がいないのです。その人たちに膨大な借金を背負わせて、果たして将来やっていけるのだろうかと、今から心配になってしまいます。

積極財政で国債を増発し、国家の信用に影が差すと、長期金利も上がってきます。すでに10年国債で2%台まで長期金利が上がってきました。この国債の利息も国家予算の中から払わないといけません。国債の増発と金利の上昇という状況が続くと、日本の国家予算は借金の利息を払うことに大部分が使われてしまうということになりかねません。

また財政が悪化して通貨の信用が落ちると円安が進みます。今もうかなりの円安になっていますが、これがさらに進むと、輸出産業はよくても海外から輸入する物資、食料やエネルギー資源などは高くなるので、インフレが加速し、国民生活にはマイナスです。今はそれでなくても日本はインフレ、円安、長期金利上昇という状況なので、それを加速させるような政策が適切と言えるかどうか。私としては正直「おいおい、大丈夫かな」と思ったりもするのです。

(構成=久保田正志)