中小企業を中心に、レンタルサーバーやWeb作成サービスを提供するIT企業「KDDIウェブコミュニケーションズ」。社員は優秀で仕事熱心だが、管理職になりたがらない。30歳前に優秀な若手が引き抜かれてしまう、というのが社長の悩みだ。

「エグゼクティブコーチング」という言葉をご存じだろうか? 一般的なコーチングとは異なり、悩みや迷いを抱える経営者とコーチが共に、自らのビジョンや原点を探り、先の見えない時代に本質的な「解」を見いだそうというものだ。経営者とコーチは基本1対1で対峙し、時間をかけて話し合う。

本連載では、実際の企業経営者がコーチと話しあい、エグゼクティブコーチングを行うセッションの模様を詳しくお伝えする。普遍的な課題と、その解決の糸口は多くの読者にも共感できるものになるはずだ。今回エグゼクティブコーチングを受けるのは、2016年4月に代表取締役社長に就任した、KDDIウェブコミュニケーションズの山崎雅人氏である。

KDDIウェブコミュニケーションズは、2017年2月に創業30周年を迎えた、ITの世界では老舗の企業だ。提供20年目となる主力サービスのレンタルサーバー「CPI」に加えて、誰でもホームページが作成できる「Jimdo」や、Webから電話をかけられるようにする「Twilio」など、それぞれドイツ、アメリカで生まれたサービスを日本向けにローカライズする事業も手掛ける。各サービスに共通するのは、家電のように簡単に使えるITを、手頃な価格で提供したいというコンセプトだ。

今回、エグゼクティブコーチとして山崎氏と話し合うのは、アイディール・リーダースの丹羽真理さん。現在、山崎氏にはある「悩み」があるという。丹羽さんはその解決のためにどんなヒントを提示できるのだろうか?

(左)アイディール・リーダーズのエグゼクティブコーチ、丹羽真理氏(右)KDDIウェブコミュニケーションズ 山崎雅人社長

IT系企業に多い悩み「30歳前で優秀な若手が辞めてしまう」

【山崎】私が社員に対して感じているのは「仕事よりも人を見てほしい」ということなのです。「自分がやっている仕事を良くしていこう」というマインドは高い。でも、隣の人が困っていることへの関心が低いように思えるのです。一人一人がプロフェッショナルの意識を持ち、互いにシナジーを生んでいきましょう、という前提があるわけですが、スキルが足りない人、これからスキルを上げていきその場に加わろうという人がどうしても放置されがちな傾向がある。

そこが改善されないと、我々が示す経営方針までは理解できても、それを現場が咀嚼して、目標と合致した行動を取るという「ツリー構造」が作られないと思うのです。組織の上の方であれば理解出来ていることが、下に行けば行くほど「何のために?」「何をやっているんだろう?」という迷いがあるのではないか、と心配しています。「君がやっていることは、会社にこのように貢献していて、ここをこうすればもっとキャリアアップすることが出来るんだよ」といったアドバイスができていると良いのですが。今は、ある特定スキルが伸び切ってしまうと、その先に進めていないし、苦手を克服するような手助けが出来ていないかなと。

KDDIウェブコミュニケーションズの事業内容。CPI、Jimdo、twilioなど各サービスに共通するのは「家電のように簡単に使えるITを、手頃な価格で提供したい」というコンセプトだ。

【丹羽】昭和の頃のように「俺の背中を見て育て」とは言えませんからね。

【山崎】そうなんです。一方で、毎年数名採用する新卒から20代の人も「道しるべ」を求めている人が多いという実感もあります。30代以上であれば自分でキャリアプランを作りなさい、とは言えますが、それまでに辞めてしまう人もいるのも悩ましい。マネジメントのスキルを身につける前に、専門技術だけを磨いた若手が、その技能を求める他のベンチャーに行ってしまうケースもあります。それも優秀な人から順に。

【丹羽】マネージャー研修を受けてもらい、そのスキルを伸ばそうという話になる前にやめてしまう、ということですね。IT業界、特にベンチャーは人の流動性が高いですから、こうした若手の人材流出はIT業界では共通する悩みと言えそうです。

【山崎】マネジメントみたいな仕事はやりたくない。それよりも今の仕事を頑張ってより良くしていきたい。でも専門スキルをさらに伸ばそうとするならここではなくて……ということなのだと思います。(マネジメント)セミナーもモチベーションを持ってもらえるよういろいろと工夫はしているつもりなのですが、どうももう一つ身が入っていない、という印象を受けるのです。