対話を通じてさまざまな課題を解決し、目標や夢を実現することを目指すコーチング。その中でも、経営者に特化したコーチングが「エグゼクティブコーチング」である。本連載では、実際に各社の経営者にエグゼクティブコーチングを受けてもらって、その内容を誌上で再現してきた。
これまで本連載では、「店長をどう育成したらよいか」「管理職になりたがらない社員をどう変えるか?」「高品位ブランドでどう存在感を出して行くか」「次世代に何を残していくか?」といった経営者たちの悩みに対して答えを導き出してきた。今回は少し趣向を変え、こうした悩みをコーチにぶつけ、その結果導き出された方向性や仕組みを、経営者がどのように実現したかという事例を聞いていく。
今回お話を聞いたのは、玉寿司の中野里陽平社長。同社が展開する「築地玉寿司」は、手巻きずしの元祖として知られる人気チェーン店だ。中野里社長は4代目として会社の再建に尽力し、ここ1~2年は「大学」「舞台」など、一見すし店とは関係のなさそうな新しい仕掛けづくりに奔走している。なぜそのような取り組みを行っているのか、取材した。
手巻き寿司を巻く数、年間100万本
【丹羽】この連載はこれまで、経営者の方にエグゼクティブコーチングを実際に受けていただくという形でやってきたのですが、今回はこれまでとは趣を変え、コーチングを受けて方針を定めたあと、実際に経営者がどのように悩みを解決し、組織を変えていったのかという事例を伺っていければと思います。まず、玉寿司がどういった会社なのかを教えてください。
【中野里】玉寿司は大正13年創業の老舗で、昭和46年に「手巻き寿司」を初めて提供した寿司店です。私の父が社長をしていた時――高度経済成長のころ、次々と生まれた「駅ビル」への出店を加速させたことで成長しました。バブル崩壊後は、厳しい時期も続いたのですが、2003年に私が4代目として経営を引き継ぎ、現在は直営29店舗を全て「寿司職人の居る寿司屋」として展開しています。従業員は650名、うち正社員が230名です。「気軽に、でもいい寿司を食べたい」というニーズに応えることをモットーに、手巻きは年間100万本巻いています。
離職率4%の秘訣はコミュニケーション
【丹羽】2016年、船井総研の「グレートカンパニーアワード」も受賞されていますね。
【中野里】「働く社員が誇りを感じる会社賞」という賞を頂きました。玉寿司の特徴は、従業員の離職率が低いことも挙げられるのです。飲食業界は離職率が30%を超えるのですが、弊社はこれを4%にとどめている点が評価されました。
【丹羽】4%! それは一般企業を含めて見てもかなり低い数字ですね。驚かされます。