1991年に10兆円弱を記録した百貨店業界の売上高は、家電や家具などの大型専門店やショッピングセンター、コンビニなどの台頭により16年には4割減の6兆円弱にまで縮小した。それでも業界最大手の三越伊勢丹は、伊勢丹新宿本店、日本橋三越本店、銀座三越の基幹3店を中心に1兆円超の売り上げを維持している。

だが、ここで踏みとどまり、新たな成長を目指すには、本業の強化に加え新規事業の開拓を進める以外に道はない。危機感を強めた大西氏は、基幹店の大規模リニューアルを敢行したほか、外食、旅行、婚礼などの新規事業へ次々と乗り出していく。その際に重用したのは、伊勢丹や三越の生え抜きではなく、他社からのスカウト組と外部のブレーンだった。13年12月のインタビューに大西氏は次のように答えている(記事掲載は本誌14年2月3日号)。

「新規事業のヒントを得たときは、担当部署に『命じる』のではなく『提案』することにしているのですが、営業本部や婦人統括部などのラインに提案しても、日常業務で手いっぱいのこともあり、思うようには動いてくれないというもどかしさがありました」。「競合相手は百貨店だけではなく、意思決定の早いベンチャー企業などさまざまです。世の中の動向に目を向け、これと思った事業を機動的に立ち上げる。そのスピード感が従来の百貨店には欠けていた」。そこで新規事業開発の専門部署を設置し、スカウト組や外部ブレーンに事業化への準備を委ねたのだ。

といっても、実際に事業を動かすのはプロパーの社員たち。彼らのうち「ほぼ9割は大西さんの意図を理解していなかった。伊勢丹出身か三越出身かに関係なく、ほとんどが『大西改革』についていけなかった」と三越伊勢丹の幹部が肩を落とす。

その結果、新規事業の立ち上げや店舗リニューアルなど重要事業の多くが予定より1年から1年半遅れとなるのが常態化。たとえば銀座三越の免税店フロアが失敗といわれるのも、事業化が遅れに遅れ、中国人観光客による「爆買い」ブームが去ったあとにオープンしたからだ。

笛吹けど踊らず。なぜそうなるのか。

「最大手だけに社員の危機意識が薄い。業績が悪化し、異常な形で社長が代わるというのに、『もう新規事業に注力しなくて済む』とばかり、社員の多くがほっとした表情。従来の百貨店事業だけで、これからも食べていけると勘違いしている」(前出の関係者)。

大西氏辞任について「『外』の人が悲しみ、『中』の人はおおむね歓迎している」と指摘するのは、百貨店事情に詳しいライターの中沢明子氏。「かつて私は衣服の8割を伊勢丹で買っていたのに、今はほんの1割程度。同様に伊勢丹ファンの多くが来店頻度を減らしている。そこに危機意識を持たなければいけないのに、新経営陣にその感覚があるのかどうか疑問です」。ほっとしている場合ではないはずだ。

(宇佐美雅浩=撮影)
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