スピーチ原稿を“書いてはいけない”
私たち活字媒体の人間が原稿を読み直すときに、3回ほど違う読み方をする。1回目は素読み。内容は考えずに文字などの間違いだけを見ていく。2回目は内容の食い違いはないかなど、中身を考えながら。3回目はどちらも合わせて読む。
文字面だけを追っていると内容を考えにくく、内容を考えながら読むと文字の間違いを見落としやすい。読み方を変えることで、はっきりと頭の使い方が違うのが感じられる。同様に、原稿の文字だけを見ている読み方では、内容まで頭がまわらず、目に入った文字の“音読作業”にすぎない。これでは、「でんでん」も起こってしかりだろう。
「本当はスピーチ原稿はないほうがいいです。どうしても読んでしまいますから。もし用意するなら、書いた内容を一旦自分の中に落とし込んで理解する。それから話すようにしたほうがいい」と松本さん。
実は、このスピーチ原稿こそが「頭の中が真っ白になる」原因だというのだ。
「原稿を書くから、忘れるんです。だから最初から書かなければいいんです」
原稿を書くことで丸暗記しようとし、次はなんだっけ……と考えるうちに話はよどみ、挙げ句にスッポリと抜けおちて、思い出すことが出来なくなる。頭が真っ白な状態だ。
それよりも、自分の言葉で話すべきだという。「たとえば、政治家の方々は選挙の辻立ちなど場数をこなして演説を覚えます。当選回数に応じて、その演説も上手になっていくものです。ところが、いざ国会に出ると下手になる。なぜなら、原稿を読まされて、自分の言葉になっていないからです」
自分の思いのたけを話すうちは言葉が流れ出てきて、その熱意が魅力的に感じられるだろう。ところが、いざ原稿を持たされると気持ちがこもらない。とはいっても、素人が何も持たずにいきなり話すことなど難しい。ならば、できるだけ自分の言葉で話すために、メモや箇条書き程度の覚書を用意するといいそうだ。
話をする前の準備として心がけるポイントは、次の通りだ。