政府への人質となる銀行の決済システム

10月7日にIMFが、「国際金融安定性報告書」というきわめて皮肉なタイトルになってしまった定例レポートを出した。その中の第1章の付録に「アメリカ貸付関連商品による損失推定」と題する表がある。世界中の金融機関がアメリカ発の貸付関連商品(サブプライム住宅ローン、それ以外の不動産ローン、さらには企業貸し付け、社債、そしてこれらすべての貸し付けを証券化した商品すべて)の保有から発生した損失計上(評価損)の大きさを推定したものである。

今年の4月には、世界全体で約9450億ドルの損失があったと推定されていた。それが10月時点の推定は、約1兆4000億ドルに膨れ上がった。たった半年で、4550億ドル増えてしまった。この先、どこまで増えるのか。

10月時点での損失推定の中で、サブプライムローンそのものの損失は約500億ドルで全体の3.6%しかない。しかしサブプライム関連の証券化商品の損失がその10倍の約5000億ドル。さらに、企業向け社債と企業向け貸し付けの損失が約3300億ドルもある。サブプライムローン自体は、じつは小さな部分で、銀行の損失の大半は証券化商品と企業への貸し付け・社債によるものなのである。しかも、証券化商品の損失はこの半年では拡大しておらず、この半年で増えた損失推定額の大半は企業向け貸し付けと企業向け社債であった。両方で半年の間にじつに約2400億ドルも増えたのである。

この損失推定の付録表が、「アメリカ貸付関連商品による」となっているのは、意味がある。第1に、この損失推定はすべてアメリカ発の商品の保有にかかわるもので、震源地がアメリカだということである。第2に、損失はサブプライムローンだけではなく、貸付関連商品全般に発生しているということである。じつは、サブプライムローンそのものの損失は氷山の一角で、そこからの証券化商品と企業向け貸し付け(および社債)が巨大すぎたことが今回の金融危機の真の原因なのである。

しかも、世界中の金融機関がアメリカ発のこうした金融商品を持っている。だから、アメリカの銀行のみならず、ヨーロッパの銀行の資本注入が問題になるのである。