サラリーマンの収入格差もシャレになっていない!?

芸能界は完全なる実力勝負であり、「自己責任論」が存在する。だからこそ、清水の過去の薄給について、事務所を擁護する売れっ子芸能人が何人か出て、大きなニュースになったのである。翻ってこれをサラリーマンにあてはめて考えてみたい。前出の東京新聞の記述を読むと、上場企業では役員と一般社員の間に格差が広がっている実態が、具体的数字とともに表れている。

いま、春闘の季節を迎えているが、芸能界の論理がそのままサラリーマンの世界でまかり通ってしまうと、たとえば交渉の場において、出世した役員の方々から「お前らが稼がないからベアはしない。悔しかったら役員にでもなってみろ、バーカバーカ」と言われても、一般社員はそれを甘んじて受け入れなくてはならなくなる。

これまでの日本社会には「1億総中流」の幻想があり、同じ会社に入ったらそれほどの給与差はないと、なんとなく信じられてきた。が、もはやそんなことはない。役員と一般社員の収入格差は確実に広がってきているのだ。

幸いなことにまだ役員が一般社員に向けて「商品がなかなか売れない時代なのだから給料は安くて当たり前だ。さっさと実績あげろ! そして数十人に一人しか生き残れない役員レースで勝利してみやがれこの野郎!」などと言い放つようなメンタリティを持っていないため、「月給5万円」社員はさすがに存在しないだろう。そこそこの生活ができるだけの給料は支払うよう、労使は調整を行っている。

ただし、上場企業の役員の一部は、もはや売れっ子芸能人レベルのカネを稼いでいるわけであり、企業社会においても競争の激しさや収入格差といった面では、もはや芸能界と似たり寄ったりであるともいえる。

今後、役員報酬を上げれば上げるほど、前出の売れない芸人のようなメンタリティの正社員が増え、結果、会社員という職業が本来持っていた「生活の安定性」が失われないかと危惧する。また、会社員人生に絶望した人が続々と退職したり、社内の競争から降りたりすることで、企業の力が低下することも心配だ。

どちらにせよ、ある役員が出世できた背景には、多くの一般社員の貢献があったことは間違いない。それなのに、「会社」という仕組みにおいて、より個人主義的な、芸能界並みの格差が生じてしまうのはどうなのか。

自分だったら正直、同じ会社で働いているにもかかわらず、自分の給与の138倍の報酬をもらっている人と一緒にエレベーターに乗りたくない。

なんでもかんでも「実力主義」「欧米基準」にするのは、日本の会社員にはあまり向いてないような気もするのである。

【まとめ】今回の「俺がもっとも言いたいこと」
「会社」という仕組みのなかに、芸能界並みの格差を持ち込むなよ!
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者/PRプランナー。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『バカざんまい』など多数。
(宇佐美雅浩=撮影)
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