現政権とは真逆の地平に立つ政治家

安倍三代――こう書けば、誰もが岸信介氏、安倍晋太郎氏、そして現首相・晋三氏を思い浮かべるだろう。だが、著者でジャーナリストの青木理氏が取り上げる初代は母方の祖父・信介氏ではなく、父方の祖父である寛氏である。やはり政治家で、一般になじみは薄いが戦前から戦後にかけて二期連続で衆議院議員を務めた。

『安倍三代』青木理 (著) 朝日新聞出版

特筆すべきは、彼が筋金入りの反戦主義者だったことだろう。太平洋戦争遂行のために組織された大政翼賛会に真っ向から対峙して選挙戦を勝ち抜いている。そして、その目線はあくまでも低く保たれ、庶民感覚を大事にしていた。著者の言葉を借りれば「政治思想的にも、政治手法の面でも、現政権とはおそらく真逆の地平に立っていた」という政治家である。

しかし安倍首相の口から、この祖父の名を聞くことはほとんどない。むしろ頻繁に耳にするのは、母方の祖父である岸信介元首相だ。いうまでもなく、あのA級戦犯容疑者の烙印を押されながらも代議士に返り咲き“昭和の妖怪”と呼ばれた人物である。やがて、最高権力者の地位まで昇り詰め、1960年の安保改正に執念を燃やし、死の直前まで政界に君臨する。

では、二代目の晋太郎氏はどうだったのか……。寛氏と同じく東大を卒業し、毎日新聞を経て議席を得る。元新聞記者らしいリベラリズムと現場主義、そして絶妙なバランス感覚を備えていたという。軍部を敵に回し、戦争にも一貫して反対した寛氏の背中を見て育ったからだろう、彼は父と同じく穏健な考え方の持ち主だ。