未来は予測できないが、創ることはできる

未来の予測が難しいのであれば、予測が成り立たない中での合理的なマーケティングの進め方を考えてみるべきではないか。日本の経営学の権威、加護野忠男・神戸大学名誉教授が興味深い指摘を行っている。

「未来は予測できないが、創ることはできる」

この広く知られた経営学の格言的な言葉は、さまざまなところで繰り返し使われてきた。しかし、意外なことにその意味について、学術的に深く探究されてはいない、と加護野氏はいう。その中での例外的な学術研究の成果として加護野氏が挙げるのが、S.サラスバシ氏による一連の研究である(S.サラスバシ著『エフェクチュエーション』碩学舎)。

マーケティングの成功は、常に最初から完全に未来を読み切って生まれるわけではない。そして一方で、事前の見通しは立っていなくても、企業が行動してみることで、新しい展開が生まれることがある。サラスバシ氏たちは、エフェクチュエーションという理論体系のもとで、この2つの現実に注目する。行動してみることで生まれる可能性があるのなら、この可能性をうまく取り込む戦略行動のあり方を探究してみるべきである。

このような発想から、サラスバシ氏たちは、未来の予測が難しく、市場における成長のトレンドが見いだしにくい場合に有効な戦略行動のあり方を解明している。

それは、どのような行動なのだろうか。ひとつの企業事例を振り返ってみよう。一橋大学教授の沼上幹氏が、新著『ゼロからの経営戦略』(ミネルヴァ書房)のなかで興味深い事例分析を行っている。

建設機械メーカー大手のコマツは、21世紀初頭の経営危機を乗り越え、国際競争力を回復していく。そのプロセスで重要な役割を果たしたとされるのが、KOMTRAX(コムトラックス)である。KOMTRAXとは、建機の稼働管理システムであり、GPSを搭載したコマツの建機が世界のどの場所にあって、エンジンの稼働状況が日々どのように推移しているかなどを、すべてコマツのオフィスで把握できる。