コマツの建機を盗んでも追跡される

KOMTRAXの搭載は、コマツの建機事業にさまざまな付加価値向上をもたらした。

(1)KOMTRAXによりコマツは、自社の建機の販売後の稼働状況をグローバルに把握でき、メインテナンスの時期や、どのような部品が必要かを、事前に予想しながら保守サービスを展開できるようになった。この結果、コマツの保守サービスは、以前に増して迅速、かつ効率的に実施されるようになっている。
(2)KOMTRAXはグローバルな債権回収にも効果を発揮することになった。KOMTRAXを搭載しておけば、販売後にユーザーからの支払いが滞ったような場合にも、建機にロックをかけて動けなくすることができる。
(3)KOMTRAXによりコマツの建機は、販売後の稼働とメインテナンスの履歴が明確に残るようになった。その結果、コマツの建機は、中古市場での価値を高めている。
(4)さらにコマツは、KOMTRAXにより建機の稼働状況をモニターすることで、グローバルなマクロ経済の変化を一早くとらえるとともに、代理店から受注情報があがってくるよりも早い段階から、的確な生産計画を立てることが可能になった。その結果コマツは、リードタイムの短縮化と、在庫管理の高度化を実現している。

しかしコマツは、これら(1)~(4)の効果を事前に見通してKOMTRAXの開発をスタートしたわけではない。

コマツがKOMTRAXのシステムを確立していくきっかけは、1990年代後半に日本国内で、建機を盗んでATMを破壊し、現金を奪う事件が多発したことだった。GPSを付けて位置情報をとり、「コマツの建機は盗んでも、すぐに追跡されるようにする」との案が検討されはじめた。

そして、この話を聞きつけた建機のレンタル事業会社が「トータル・コストの削減につながるのではないか」と、研究開発への参加を申し入れてきた。共同研究が進められ、建機にGPSを付けて位置情報とエンジンの稼働状況をオンラインで確認し、建機の効率的な配車を実現する管理システムが生まれた。

この管理システムは、「KOMTRAX」と名付けられ、コマツの建機の有料オプションとして販売された。しかし、このオプションの販売は低迷した。

「使えばその効果がわかるシステムも、購買前にはその効果は不確実であり、そのためにKOMTRAXは買い控えに直面している」――このように考えたコマツは、KOMTRAXを自社の建機の標準装備とし、建機の販売価格の2%程度とされる装備費用は自社で負担することにした。こうしてコマツの建機には、すべてKOMTRAXが装着されるようになった。