「新改憲勢力」による3分の2確保のシナリオ

改憲問題では、一方で「憲法上、首相には何の権限も権能もない」という壁がある。そのため、安倍首相は「在任中の改憲実現」には執着せず、それよりも長期政権維持に力点を置いているのでは、と疑う声もないわけではない。

だが、今も「在任中の改憲実現」に並々ならぬ意欲と見るのが正しいだろう。1月4日の年頭記者会見でも「本年は日本国憲法施行から70年の節目の年」と進んで「憲法」を口にした。5日の自民党の仕事始めでのあいさつでは、「新しい時代にふさわしい憲法はどんな憲法か、今年はいよいよ議論を深め、私たちが形づくっていく年に」と力説した。

新しい改憲戦略とは何か。一つは改憲挑戦時期の見直し、もう一つは「改憲勢力」の再編ではないか。首相は「総裁は連続2期6年まで」という自民党則を前提に、当初は「任期満了の18年9月までの改憲実現」という計画だったと思われるが、「3期9年」を容認する党則変更の見通しが立ち、東京オリンピック後の21年9月まで、改憲挑戦時期に幅を持たせるプランも視野に入れ始めた。

もう一つの「改憲勢力」については、「3分の2確保」のために与党の公明党との連携が必須という判断だったが、「加憲」の公明党は首相の改憲構想と距離が大きすぎる。そこがずっと引っかかっていたに違いない。もし「公明抜き」を選択すると、3分の2の確保には、衆議院で8、参議院で22の議席増が必要である。安倍首相は「改憲の友党」の維新と民進党改憲派の抱き込み、次期衆参選挙での「自維プラス民進改憲派」の議席拡大で「新改憲勢力」による3分の2確保というシナリオを構想し始めた可能性がある。

もちろん成否は不透明である。18年9月の総裁3選が確定的というわけではない。オリンピック後まで8年超の長期在任も、国民が支持するかどうかは予測不可能だ。「新改憲勢力」結集や次期衆参選挙での勝利も見通せない。自公体制終結、民進党分断が必要で、もしかすると反動による自民党分裂も含め、政界大再編に発展する展開もあり得る。だが、「1強」体制放棄で、首相主導の再編が実現するほど、政治的エネルギーは健在なのか。

疑問は数多く、展望も想像の域を出ないが、安倍首相が政権担当5年目を迎え、「改憲」を軸に政界再編まで視野に入れ始めているのは否定できないだろう。その意味で、今年は「憲法の年」といっても過言ではない。問題は改憲を目指す安倍首相の理念である。