季語で「忘年会」を盛り上げる?

季節を意識すると、ものをより細かく見るようになります。また、新しい言葉を知ることで、感性も磨かれます。歳時記をめくってみると、ちょっと変わった季語もたくさん出てきます。たとえば、「虎落笛」。冬に木々や電線やビルの合間をひゅうひゅうと音を立てて吹くような北風のことです。これは冬の季語ですね。もともとはビルの谷間ではなく、竹の垣根の隙間を吹き抜ける風がひゅうひゅうと笛のような音を立てるさまを言ったようですが、そんな由来を知らなくても日本人は「ひゅうひゅう言って吹く風」にたいして、「ものすごく寒い日」という共通の感覚があり、そういう日の思い出もまた、人それぞれにあることでしょう。

「虎落笛」のように日常的には使わない季語を知っていることも楽しいですが、それとは意識せずに使っている季語もたくさんあります。とくに、食べ物。たとえばこれからの季節ですと鰭酒や寄せ鍋、おでん、河豚、風呂吹……これぜんぶ冬の季語です。沢庵漬や納豆などもいまは一年中スーパーで売っていますが、じつは冬の季語なんです。大豆や大根を乾燥した冬の寒気に干すことで旨みが出るそうです。季語を知っていると食べ物を見たときに収穫の風景まで目に浮かびますね。

『春夏秋冬 雑談の達人』は、もともと季語にも俳句にも関心のなかった若者「男子君」が、やけに風流な謎の先輩との出会いを通じて、季語というものを知り、周囲のものごとへの観察眼を養い、言葉への感性を磨いていくという成長物語です。クライマックスは歳時記と季語を駆使した「忘年会」のシーンなのですが、意外な季語のオンパレードになっています。じつはこの忘年会、会社にとって大切なお客様のおもてなしの場でもあり、幹事の男子君の責任は重大です。季語でみがいた雑談力でこのミッションを乗り切れるのでしょうか。その結末はぜひ本でお読みください。

この本は俳句のつくりかたを書いたものではなく、その「入り口」のようなものです。本を読んで季語に少しでも興味をもっていただけたのであれば、ぜひ句会にも参加してみてください。句会なんて敷居が高いと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、参加してみると、俳句を通していろんな話が飛び出し、盛り上がったりして楽しいものです。僕も「いるか句会」「たんぽぽ句会」を定例で開催しています。また、選句、選評だけの「つくらない句会」も時折開催しています。自分で俳句を詠まなくても人のつくった俳句やその解釈を通じて、初対面の人とも深い共感が生まれたり、大切な思い出を共有したりできるということを、ぜひ、実際に体験してみてください。(談)

●「つくらない句会」を開催します!
1月12日(火)19:00~ 川口メディアセブン
▼お申し込みはこちらから
http://www.mediaseven.jp/event.html?no=1054&prv=list

●いるか句会、たんぽぽ句会を開催しています。
▼日程、お申し込みはこちらから
http://horimotoyuki.com/kukai/

堀本裕樹(ほりもと・ゆうき)
俳人。1974年和歌山県生まれ。「いるか句会」「たんぽぽ句会」主宰。國學院大学卒。第2回北斗賞、第36回俳人協会新人賞、第11回日本詩歌句随筆評論大賞、平成27年度・和歌山県文化奨励賞受賞。 平成28年度・NHK俳句選者。東京経済大学非常勤講師。著書に句集『熊野曼陀羅』、小説『いるか句会へようこそ!』、『富士百句で俳句入門』、作家・又吉直樹への俳句入門講義をまとめた『芸人と俳人』、漫画家・ねこまきとの共著『ねこのほそみち』などがある。最新刊は『春夏秋冬 雑談の達人』(プレジデント社)。
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