グローバル化は米企業の成長にも必要

第3の要因は、インターネットによる情報の流通、そして電子商取引(eコマース)の増加である。インターネットの普及は、グローバルな情報流通の劇的な増加を引き起こした。2005年には全世界で10億人ほどだったインターネット利用者は、その後も拡大を続け、2013年には27億人を越えている。

eコマースの拡大も止まらない。2014年のグローバルな消費者向けのe コマース市場の規模は160兆円ほどと見られる。日本についていえば、2014年の消費者向けe コマース市場の規模は8兆円ほど(旅行売り上げ等を含めると12兆円)であり、中国、アメリカ、イギリスに次ぐ世界第4位の規模である。

さらにeコマースでは、消費者が居住している国以外の事業者から購買を行う、越境取引(Cross Border Shopping)が容易である。中国の人たちが、ネット通販で日本から買い物をするなどの動きが新たに広がる。

もっとも、この国境を越える消費は一気に実現するわけではなく、小売企業が越境eコマースを推進しようとすれば、国際物流、各国の法規制、多様な決済手段、現地商習慣などに、多言語で対応していかなければならない。

そのために現時点では、積極的に越境eコマース取り組む小売企業は限定的である(経済産業省『平成26年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)報告書』)。しかし今後は、eコマース全体の成長を上回るペースで越境eコマースの成長が進むことが予想されている。

以上で見てきたように、グローバル・マーケティングが拡大した背景には、先進国を中心とした世界の企業が、国内市場に十分な成長のフロンティアを見いだせなくなっているという問題がある。そこにイノベーション費用の高騰、国際的な物流や通信のインフラの整備といった要因が加わる。

今後のグローバル・マーケティングを考える上で、押さえておかなければならないのは、米国民の政治上の選択によって、以上の問題や要因が解消したり、消滅したりするわけではないということである。今後の米国が保護主義的な政策を採る場合にも、一部の内需型企業を利することはあるとしても、そこから新たな産業が続々と生まれるわけではない。

グローバル化は米国企業の成長にも必要なことを直視すれば、米国が保護主義的な政策をとる余地は大きくはないともいえる。そのなかにあって、世界の企業が成長機会をグローバル化に求める動きは、減速することはあっても、止まることはないと見るべきだろう。

とはいえ、途上国の経済成長にも陰りが見られ、2010年代に入り世界貿易の伸びは明らかに鈍化している。2015年には世界貿易は6年ぶりに減少に転じ、16兆4千億ドルに落ち込んだ。一方で経済活動のグローバル化は、各国において新たな格差を生み出したり、移民問題などの文化的な対立をもたらしたりしている。

これらの問題が世界の国々の政治を揺さぶる動きが強まれば、多くの企業が成長のフロンティアを自国内に求めたり、事業の目的を利益拡大とは異なるところに設定したりする新たな動きが強まっていくことも考えられる。IT分野などのイノベーションについても、費用の高騰をグローバル化でカバーしてきたことを考えると、今後の事業性については厳しい見方が広がるかもしれない。

そのなかで従来型の利益追求型の企業のあり方が見直され、ソーシャル・イノベーションや社会的起業家などへの期待と注目が高まっていく可能性があることにも、われわれは目を配っておくべきだろう。

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