自動車保険 認知症は「保険金が全額出ない可能性」

また、取り調べで認知症が判明すると、家族が監督責任を問われることがありますし、被害者に対する負い目や賠償の問題が重くのしかかることになります。頼みの綱の自動車保険も認知症が判明すると保険金が全額出ない可能性があるそうです。

よって、認知症ドライバーの家族はあの手この手で免許証返納を促すのです。前出のMさんは言います。

「ヒヤリ・ハットの話をした奥さんも、不安からご主人に免許返納を言い続けたそうですが、『あなたの運転、横に乗っていると怖いの』という言い方をしたのがご主人のプライドを傷つけたようで、断固拒否。後で聞いたのですが、暴力沙汰もあったとか。もう戦いというか、経緯を聞いているといたたまれなかったですね」

ただ、Mさんはご主人の話も聞いたそうです。すると、「気持ちを理解できる部分もある」と。純粋な“クルマ愛”は共有できるとMさんは語るのです。

「カーマニアというほどではないのですが、クルマに乗ることがステータスととらえる世代で、いいクルマに乗るために仕事を頑張ってやってきたというんです。また、運転席が唯一ホッとできる場所だという話もされました。加えて、クルマはいつでも行きたいところへ行ける道具。取り上げられたら、その自由が奪われるというわけです。その思いはわかる。でも、ヒヤリ・ハットを多発する状態はやはりよくないですよね。最終的にはこの家族の問題は息子さんが出てきて、強引にクルマを処分して決着。その後のご主人は寂しそうで認知症が進行してしまいました」

Mさんは、そんな経験をしたせいか、知り合いのケアマネージャーが集まった時、認知症ドライバーに、どう説得したら免許返納を受け入れてもらえるか、という質問をしたといいます。

「まず出た意見は、ストレートに運転技量を指摘するとプライドを傷つける、というもの。代案としては、お子さんなどの家族が『出かけたい時は自分が運転して不自由な思いはさせないから』と優しく提案する。しかし、それでは家族の負担が増えるし、結局は“お父さんには運転を任せておけない”ということであって、言い方にもよりますが、ご主人のプライドは傷つきます」(Mさん)