1年半前に憲法を議論する土俵が崩れた

【塩田】憲法審査会の今後の展開ですが、将来、改憲の対象として取り上げる項目をどうするかという絞り込みは、時期的にはいつごろまでと想定していますか。

【武正】そもそも憲法審査会を開くべきでないという党もあります。憲法審査会は憲法調査会の時代以来、16年間、与野党の丁寧な合意形成を旨としてやってきました。その伝統に則って進めていくことだと思います。

【塩田】安倍首相は「在任中に改憲を成し遂げたい」と発言したこともありました。現段階では自民党総裁任期は18年9月までで、残り2年足らずですが、改憲原案の取りまとめ、改憲案の国会発議、国民投票というスケジュールをこなせるかどうか。

【武正】安倍首相は「各党は憲法草案を」という趣旨のことを言っていますが、踏み込みすぎで、私は越権と思っています。憲法に関わる基本法制の審査を行う場は国会の憲法審査会です。審査会として丁寧に議論を進めていきます。

それから、1年半前に憲法を議論する土俵が崩れてしまった。与野党で憲法を議論するには共通の土俵の確認が必要ですから、今度は立憲主義をテーマに掲げたわけです。3分の2以上による発議、国民投票での過半数ということであれば、当然、国会での与野党の合意形成が必要になってくるはずです。議論の土俵の確認が必要と思います。

【塩田】安倍首相は筋金入りの改憲論者と見て間違いありません。憲法改正について、首相は憲法上、なんの権限も権能もありませんが、安倍首相が構想していると思われる改憲プランについて、どう見ていますか。

【武正】私は安倍首相の改憲案については知りません。興味もありません。安倍首相は行政府の長で、行政府の長は改憲案は出せません。一方で自民党総裁ですから、自民党は憲法草案なるものを05年と12年につくっていて、総裁とすれば、自民党の憲法草案が案だろうと普通は考えます。二つの案がありますので、どちらかという話はありますが。

【塩田】自民党が12年に発表した日本国憲法改正草案と題する自民党案の印象は。

【武正】個人の権利が著しく縛られ、国家が非常に全面的に出ている草案だと思います。

【塩田】民進党の野田佳彦幹事長はこの自民党改憲案の撤回を唱えました。自民党はこの案に固執しているわけではなさそうですが、現在の時点で自民党はどんな改憲案を目指していると受け止めていますか。

【武正】先述したように、前国会での「緊急事態・環境条項・財政規律」の提案が当然、引き継がれていると思いますが、憲法審査会のメンバーも替わっていますので、改めて自民党の考えを聞きたいと思います。

【塩田】大きな議論となってきた9条や96条、憲法前文などを、自民党が改憲対象項目として出してくる可能性は。

【武正】議論すべきテーマとして自民党が掲げる可能性は「なきにしもあらず」と考えていますが、今までの与野党の合意形成で96条はもう封印されたと思います。9条などは、与野党で合意形成からいえば、議論の俎上にという点では優先度が低い。もっと優先度の高いものがあると思います。私の知るところでは過去に自民党の幹事からそういう話はなかった。もし変わったとすると、参院選の結果、衣の下の鎧が見えてきたと言わざるを得ません。