世界大手に国内大手3社はどう挑むのか?

今後を占う意味でも、キリンHD、サントリーHD、アサヒグループHDのこれまでの経緯を確認しておこう。2010年12月期から15年12月期の6年間における、主な経営指標をまとめてみた。

キリンHDの6期合計の営業キャッシュフロー(CF)は、1兆1586億円である。営業CFは、企業の本業による正味のキャッシュ獲得額を示すものである。そこから投資に5754億円を支出(投資CF)。配当や金融機関への返済にも5382億円を充当したというのがこの6年のキリンHDである。ちなみに、6年間合計の納税額は3013億円である。

ただし、この6期で売上高はわずか0.8%増と、ほぼ横バイの推移だ。総資産や有利子負債を減額するなどスリム化を進めているが、利益の蓄積を示す利益剰余金、いわゆる内部留保も30%を超すマイナスである。オーストラリアやブラジルでM&Aを手がけたが、想定通りに進んでいないことが背景にある。

サントリーHDは、子会社のサントリー食品インターナショナルを上場させる一方で、バーボン世界大手のビーム(米)を約1.6兆円で買収したこともあって、6年間合計の投資への出金は2兆円を超える。営業CFで獲得したキャッシュの2倍規模である。そのため、新規の借入金が返済額を上回ったために、財務CFは入金超を示す黒字になっている。事実、有利子負債は約3.6倍。同時に資産もおよそ3倍。売上高は54%増、利益剰余金は90%近い伸びである。キリンHDとは対照的な推移である。

アサヒグループHDは、営業CFで獲得したキャッシュの範囲内で投資に出金。それでいて、売上高や利益剰余金を増やしているように、効率よく稼いできたといっていいだろう。

3グループは成長の軸足を海外に移し、積極的に海外M&Aを推進。海外売上高比率も徐々に高めてきた。その海外展開の巧拙が経営成績に直結していると見ることもできる。オーストラリアやブラジルに進出したキリンHDがつまずき、「オランジーナ」や「ジムビーム」など欧米を中心に攻めるサントリーHDが売上高を伸長。やや遅れた海外展開だったがアサヒグループHDも、欧州に本格進出する。16年10月にアンハイザー・ブッシュ・インべブ(ベルギー)と経営統合するSABミラー(英)の欧州ビール事業の買収作業を完了している。買収額は約3000億円である。

それから時間をおかず12月にはやはり、SABミラー傘下のチェコ、ポーランド、ハンガリー、スロバキア、ルーマニアのビール事業を買収すると発表。世界的な有名ブランド「ピルスナーウルケル」も含まれるこれら中東欧5か国のビール事業の買収に要する費用は73億ユーロ(約8883億円)。買収資金は手持資金だけでは賄えず、借入をする。有利子負債は、サントリーHDの2兆円までは膨らむことはないだろうが、大勝負に出たということだ。

『図解! 業界地図2017年版』にもあるように、ノンアルコール飲料では、世界的にはネスレ(スイス)やペプシコ、コカ・コーラなどが待ち受けている。売上規模はネスレ10兆円、ペプシコ7兆円、コカ・コーラ5兆円だ。営業利益率はいずれも10%台である。SABミラーを実質的には飲み込んだアンハイザー・ブッシュ・インベッドの売上高は7兆円を突破する。売上規模も利益率も高い世界大手を相手に国内大手3社はどう挑むのか。M&A戦略を含めて、注目したい。

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