トランプ大統領の鉄鋼業界への指先介入は?

見聞きすることは少なくなったが、「鉄は国家なり」という言葉がある以上、“米国第一主義”を掲げるトランプ大統領が、鉄鋼業界にも「指先介入」(ツイッター)してくるのは必至だろう。新日鉄住金とJFEホールディングス(HD)への影響は?

4兆円台から5兆円台の年間売上高で推移している新日鉄住金の輸出割合は、ほぼ4割である。大部分はアジア向けだが、北米向けも輸出のほぼ1割を占める。金額にすれば2000億円を超す。

そうした新日鉄住金やJFEHDなどの米国への鉄鋼製品の輸出を巡っては、これまでも、不当廉価と認定され何度も高い関税を課されてきたのが現実だ。トランプ氏が唱える北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しも現実になれば、日本からの輸出に加え、進出を進めてきたメキシコ事業への影響も避けられない!

ただし、新日鉄住金の場合は、米国における製造拠点の整備を推進してきた経緯がある。『図解! 業界地図2017年版』でも触れているように、鉄鋼世界トップのアルセロール・ミタル(ルクセンブルク)と共同で、ドイツ鉄鋼大手ティッセン・クルップの米国工場(アラバマ州)を、2014年2月に15.5億ドルで買収。新日鉄住金が誇る最高技術を駆使した自動車向け軽量高級鋼板製造の海外初拠点としたのは、幸いだったといっていいだろう。

『図解! 業界地図2017年版』(ビジネスリサーチ・ジャパン著/プレジデント社刊)

新日鉄住金は、メキシコでも海外企業との合弁工場などを稼働させているが、米国ではインディアナ州やケンタッキー州にも製造拠点を持っており、かりにトランプ大統領からの“口撃”があっても、深刻な影響は回避できると見ていいだろう。

JFEHDの場合は、米国子会社の倒産もあって、米国事業は現地企業のAKスチールやカリフォルニア・スチールへの出資、鋼管販売のケリー・パイプの買収などにとどまる。その対策として、2016年6月にメキシコへの進出を決めただけに、頭が痛いところだろう。

JFEHDは米国鉄鋼大手のヌーコアと合弁で、メキシコにおける自動車用鋼板工場を2019年に稼働させる予定だが、トランプ大統領のこれまでの言動からすれば、見直しを迫られる可能性が高まったといっていいだろ。建設費は約2.7億ドルを予定。関税や人件費などのコスト面で、メキシコは北米向けを中心とした自動車の生産拠点としてのメリットが大きいとして、各国自動車メーカーが進出。その流れに沿う判断だった。