“現状”を維持すべき、と経済団体

たとえば、定年後に再雇用されたトラック運転手が定年前と同じ業務なのに賃金を引き下げられたのは違法だとして東京地裁に訴え、勝訴したが、2審の東京高裁では逆に敗訴するという出来事があった(11月2日)。

1審の裁判官は(1)の仕事内容や責任も同じで(2)の配置転換の有無も同じであるのに賃金を引き下げるのは合理的ではないと判断。

それに対し、2審の裁判官は再雇用者の賃金を引き下げるのは社会的に容認されているという(3)の「その他の事情」に重きをおいて逆の判断を下している。

ところが「客観的合理的理由のない不利益な取扱いを禁止する」という条文だけにすれば、会社側が合理的理由を立証する責任を負うことになり、法の行為規範として正社員との処遇の違いについての説明責任も発生する。

現行法と違い、余計な解釈が入り込む余地がなく、会社側も格差を説明するよほどの合理的な理由がない限り、格差を設けることが認められない可能性がある。

非正社員にとっては机を並べて同じ仕事をしている正社員より給与やボーナスが低ければ「なぜ違うのですか」と言いやすくなるし、会社の説明が曖昧であれば裁判(あるいは労働審判)に持ち込むことが容易になる。

だが、ここにきて経団連が2016年7月19日に「同一労働同一賃金の実現に向けて」と題する提言を出している。

その中で「わが国の賃金制度は多様であり、職務給を前提とする欧州型同一労働同一賃金(職務内容が同一または同等の労働者に対し同一賃金を支払う原則)の導入は困難」と指摘し、現行の労働契約法、パート法の基本的考え方を維持すべきと、政府に牽制球を投げている。