平田 満
1953年、愛知県豊橋市生まれ。早稲田大学生時代につかこうへいと出会い、劇団「つかこうへい事務所」旗揚げに参加。劇団解散(82年)までほとんどの舞台に出演。映画「蒲田行進曲」(深作欣二監督)では舞台と同じ「ヤス」役を演じ、日本アカデミー賞最優秀主演男優賞等、数々の賞を受賞。以後、映画、テレビドラマ、舞台と幅広く活躍。映画出演の最新作は「こち亀 THE MOVIE勝どき橋を封鎖せよ!」。舞台は自ら主宰する「アル☆カンパニー」の第10回公演「罪」が9月10日から始まる。
この髪型、ヘンじゃないですか? 実は舞台で浮浪者寸前の役をやるので床屋さんに無理を言って切ってもらったんです。床屋さんとしてはやってはいけないことを全部やったそうで、毛先は不揃い、全体的にぺったりとした感じで頭のてっぺんは薄い。かなり貧乏くさいですよね。なんだったら帽子をかぶりますけれど……。はい、このままでいきますか。
今までいろいろな役を演じましたが、大きく分けると二つのタイプがあると思うんです。ひとつは、お医者さんとか校長先生とか、政治家、会社の役員といった世間的に立派な職業に就いていて、見た目からしてパッと華やかで普段からシャキッとしている人。
もうひとつは、今度の舞台や映画「こち亀」での役柄のように、ちょっと性格的に弱かったり、人生にある意味失敗してしまった人。馴染みやすいというか好きなのは断然こちら側です。だいたい、偉そうな人って一番苦手なんですよ。偉ぶっていてダメな奴は得意ですけどね(笑)。
最近は、そういう偉いけどダメみたいな人間の両面性を表現する役をよくいただきます。時代劇などのエンターテインメントでは、相変わらず悪役はいかにも悪そうに振る舞っていて、実際にそっちのほうがわかりやすいんですけど、現代劇ではすごくいいお父さんがちょっとしたことでつまずいて犯罪を起こしちゃうといったひねった話が目立ちます。日頃はバランスをとって生活しているけれど、ふいにバランスが崩れて常識とかモラルから離れて向こう側にいってしまうというような。
振幅が激しい役柄を演じるのは勇気がいるけれど、やり甲斐はすごくあります。やっぱり、「平田満といえば、いいお父さん」と思われるよりも、「一見、いいお父さんだけど、ひょっとして……」という部分を感じてもらえれば僕もうれしいし、役者としてひとつのイメージに固まりたくないっていうのはありますね。
舞台では日常のささやかなズレや「ひょっとしたら……」という部分を強調した芝居をよくやっています。たとえば、長年連れ添っている妻と話していたら、意外な一面に触れてどっきりするとか。別に深刻ぶってるわけでもないし、なにかを暴いてやろうとは思ってないけれど、普段生活している1日の中のほんの数秒間の違和感や驚きみたいなもの、いつもは蓋をして見ない振りをしているようなことを掘り下げています。
「日常の中の不条理」とひと言で済まされてしまうかもしれないけれど、ほんの少しのきっかけで、人は成功者にも敗残者にもなりうるんですね。自分も50歳を過ぎて、これがやり残した仕事だとやっと気づきました。
僕、偉そうなこと言ってないですよね?