村上弘明
1956年、岩手県陸前高田市生まれ。東日本大震災で、実家も津波の被害を受けた。法政大学在学中に、「仮面ライダー」のオーディションに合格し、スカイライダー役で俳優デビュー。「必殺仕事人V」の鍛冶屋の政役、「腕におぼえあり」の青江又八郎役などで人気を博する。91年に元モデルの田島都と結婚、現在4人の子供がいる。趣味で有田焼を始め、年に2、3回九州を訪れて、お猪口や茶碗を作っている。「土に触るのが気持ちいい。穏やかになれるというか、無心になれますね」。自分で作った食器で食べると料理も美味しさを増すとか。
とにかく牛肉、とにかくステーキ――。これが若いときの僕の食のスタイルでした。食事に誘われて、何が食べたい?と聞かれると、決まって牛肉。撮影で行った京都でも、京料理などそっちのけで、ステーキ屋さんか焼き肉屋さんばかりに足が向きました。
生まれは岩手県の陸前高田ですし、おやじが漁業をしていたので、よく魚好きなんでしょと言われますが、むしろ魚はそんなに食べたいとは思いません。故郷の新鮮な魚を食べ慣れているから、ということではありません。子供の頃から、刺し身なんかは口にしなくなりました。
だいたい、おふくろは魚をさばくのが嫌いで、魚料理が苦手です。おやじは海の男ですから、カツオを丸ごとさばいて、大きな皿にドサッと出してきたりします。刺し身といっても、一切れ一切れが分厚くて、口の中がカツオだらけになってしまうようなものでした。おやじはさも旨そうにガバッと口に放りこんで、「お、おまえも食え」と言うわけです。でも、僕は魚のはらわたを取ったり、身をさばくところから見ているから、とても食べる気にはなれません。しかも、量が半端でない。山盛りのカツオの刺し身を想像してみてください。食欲が湧きますか。
東京に出てきて、和食のお店なんかで、カツオやマグロが三、四切れ、それも薄く切られて、おろしやつまと一緒にきれいに盛り付けされて出てくると、これくらいなら食べられるかなと思ったものです。
刺し身は苦手でしたが、アワビやウニは大好きでした。小さい頃から陸前高田の海に潜って、自分で獲っていたくらいです。夏になると、握り飯を作ってもらって海に行く。昼飯時になるとアワビやウニを獲り、おかずにしたものです。海の塩分がちょうどいい味付けになりました。生が飽きてくると、焚き火をおこして、その上で焼く。すると、アワビが踊るんです。これも美味しい。ですから、アワビの有り難みなんて、全然わからなかった。それこそ、新鮮そのもののやつを食べ放題だったから。東京に来て、アワビってこんなに高いのかとビックリしました。
子供のときのごちそうは、何といってもお肉です。豚肉が食卓に上ったら、もう奪い合うように食べました。まして牛肉など貴重品です。本当に年に何回か食べられるかどうか。僕にとって、牛肉は憧れなんです。
30代半ばで結婚するまでは、実は野菜も苦手でした。家内が趣向を凝らしてくれるお陰で、今は好きになりました。同じ食材でも、こんな料理の仕方があるんだとか、盛り付けや付け合わせでこんなに変わるんだとか、そういう手間に感じ入るタイプなのでしょう。
ちょっと、見てくれに弱いのかもしれません。