是枝裕和

1962年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、テレビマンユニオンに参加、社会派ドキュメンタリーの制作などにたずさわる。95年『幻の光』(ヴェネツィア国際映画祭金のオゼッラ賞他)で映画監督としてデビュー。その後、2004年に『誰も知らない』(カンヌ国際映画祭最優秀男優賞他)、08年に『歩いても 歩いても』(ブルーリボン賞監督賞他)、09年『空気人形』など話題作を次々と発表。映画のほかにも、CMやミュージックビデオの制作も行う。最新作『奇跡』が公開中。


 

子どもが旅を通じて成長し、帰ってくる話──最近撮影した映画を一言で表せばこうなるのでしょう。

舞台は九州。両親の事情で、福岡と鹿児島で離ればなれに暮らす兄弟が鉄道に乗って落ち合い、ある「奇跡」を願う。そして、まぁいろんな大切なことに気づいてそれぞれの居場所に戻ってくる。はっきりとした形で主人公に「奇跡」が起きるわけではないし、わかりやすいハッピーエンドではないんです。

そんな難しい心情を、主演のまえだまえだ兄弟をはじめ、子どもたちは文句なしに演じてくれました。

子どもたちには台本を渡さずに、口建(くちだ)てでセリフを伝えて進めています。フリートークのシーンもあります。でも、それぞれが自分の役を探って、掘り下げていく作業をしてくれました。

たとえば、まえだまえだのお兄ちゃんが「父ちゃんのこと頼んだで」というセリフを言うんですが、「この一言には、もう二度と自分が父親と暮らすことはないんだっていう気持ちが入っているんだ」って説明すると、見事にセリフが変化する。ちょっとした間のため方だったり、目線だったりで変えてくるわけです。もう文句なし。自分が演出していても、うるっときちゃう瞬間です(笑)。
『誰も知らない』もそうですが、子どもを描くと、僕たち大人の世界とか社会を外側から批評する目線というか、視点が持てるといいますか。僕がよく子どもが主役の映画をつくるのは、一つにはそういうことがあると思います。まぁ撮っていて単純に楽しいというのが一番ですけど。

今回はオール九州ロケだったんですが、晩飯前に撮影が終わることはほとんどなくて、現場でロケ弁が続くことも多かったんです。

そんな中、福岡で連れていってもらったのがイカが名物の「河太郎」。でも、行く前は、「せっかく行くのにエビでもカニでもなくイカかあ」って思ってた(笑)。ところが、いただいたらおいしくて。いままでのイカは何か別の食べ物だったんじゃないかと思うぐらいでした。

「玄瑛」は、V6の岡田准一君がテレビでおいしそうに食べているのを見てずっと行きたいと思っていた店。今回の撮影でもわざわざ行列に並んだりして、何回も行きました。

次作も動き始めています。でも、今回の大震災を現実の中で経験したあとに、やはり前とは同じ気持ちでは撮れない。もう一度白紙に戻して練り直そうとやっています。同時代に呼吸をして、同時代に向けて発表していく以上、変わらざるをえないと思うんです。