今の自分と「あるべき自分」とのギャップ
マーケティングにおけるリポジショニングの眼目は、製品やサービスそのものに手を加えることではない。リポジショニングは、買い手の頭のなかの商品の位置づけを変更することで、価値を生み出したり、強めたりする。
リポジショニングとリフレーミングに違いがあるとすれば、それはリフレーミングが、フレームを変えれば制約や弱みを克服したり、切り捨てたりしないですむことを強調する点にある。このリフレーミングのユニークな主張は、外部にいる顧客という他者ではなく、当事者自身が抱える問題に向き合うことから生まれる(栗木契・水越康介・吉田満梨編『マーケティング・リフレ-ミング』有斐閣)。
セラピーや心理療法におけるリフレーミングの役割は、クライアントが心の悪循環を抜け出し、葛藤を克服することにある。人は行き詰まったときに、変化のために新しい何かを求め、自らの外に目を向ける。これは自然な心の動きだが、こうした行為が行きすぎれば、心理的なトラブルが起こる。
なぜなら、こうした行為は、「自分はこうあるべき」という思いと、「今の自分」とのギャップを広げてしまうことにもつながるからである。この葛藤を克服しようと、さらに自らの外に理想や解決策を追い求めても、一層「今の自分」を受け入れられなくなっていくだけである(図1)。
この心の悪循環に陥らないためにも、何かに行き詰まったときには、今の自分を受け入れ、そのうえで何ができるかを、まず考えるようにするべきである。セラピストを訪れるクライアントは、そもそも何らかの行き詰まりに直面しているわけで、重大な制約や障害を自身のうちに抱えている。しかし、こうした自身の弱みや欠点を克服したり、切り離したりしようとする方向に性急に進めば、先の悪循環を引き起こすことになりやすい。
そこでセラピストは、制約や弱みそのものには手をつけず、クライアントの認知や活動の枠組みを変えることに注力し、制約や弱みだと思い込んでいた事象に潜んでいる別の可能性をクライアントと共に見いだしていこうとする。このように当事者の心のはたらきに向き合い、そこに活路を求めるのが、リフレーミングというアプローチである。