厄介な組織のなれ合いと圧力
また今回の事案でも全議員が不正に手を染めているわけではない。ある経理担当者は、「以前からきちんとしていた人が、その内容だけいい加減な支出をすることは少ない」と語り、規定やルールをすり抜けようとする社員は決まっているという。証券会社で長く営業のアシスタントを務めてきた女性は、経費の使い方で経理部から注意を受ける社員を何人も見てきたが、「なぜ、あの人が?」といった意外な社員はいなくて、皆が「ああ、やっぱり」と思う人ばかりだそうだ。
市議会の議員についても同じであろう。つまり問題のある議員をリストアップしてその人物を集中してチェックすれば足りるということだ。
富山市の議会事務局職員が、報道機関からの政務活動費に対する情報公開請求があったことを当該市議に漏らしていたことが判明した。請求した個人名を知らせていた例もあったという。責任者の事務局長は「守秘義務違反で信用を大きく損なった。制度の根幹を揺るがす行為だった」と陳謝した。他府県の県議会や市議会でも同様なことがあったと報じられている。
おそらく議会事務局の職員が制度の趣旨を全く知らなかっただけではなく、ある程度分かっていても職員と市会議員が内輪の論理のなかで情報を流していたり、あるいは議員からの圧力によって教えたケースもあったのではないだろうか。
これは企業にも似たような問題はある。現地の担当者は経費支出の内容をきめ細かく見ることができるが、小さな所帯では社員同士の関係が近すぎて、逆にチェックが甘くなってしまう恐れがある。経費を支出する支店長と経理担当者が上司と部下というケースもあるからだ。そのため本部で最終的に審査して適正さを担保している会社も多い。ここには、仕事の機能面よりも人との結びつきを優先する日本の組織に特有な課題が横たわっている。
また「会社の上層部については、経理の規定やルールから外れた支出があってもそのまま通してしまう」と語る経理担当者もいた。経理部がそれほど強くない会社では、忸怩たる思いを抱えながら経営者や上層部が提出した書類を見ている担当者もいるのである。
そういう意味では、事務局に入ったベテラン経理担当者に対して一定の独立性を担保することが求められる。